結局、終わり良ければ……３

1・2


前回、車両の窓を閉めるべく居酒屋から出てきた。

「わざわざすいません。」
対象者の女の子から鍵を渡された男性にお礼を言われた後、一旦その場から離れる。
対象者の車に向かう男性を視界に入れながら、少し離れた場所に位置取り、居酒屋の出入口を監視する。


男性が居酒屋に戻るのを確認、バイクを移動させてから一服。
対象者と同じ店で腹ごしらえでもしたいところだが、たった今接触してしまった今回はそうも行かず、缶コーヒーと煙草で時間を潰す。
まめにバイクのエンジンをかけながら待つこと１時間半、対象者達が店から出てくる。
同僚たちが２軒目へ移動する中、対象者と鍵の男性が同僚たちに挨拶を交わし、その場から離れる。
少し距離を置いて、バイクを押しながら尾行開始。
男性の方はかなり酔ってるらしく、フラフラしては対象者に抱きついたりしながらコインパーキングへ向かう。
２人共、対象者の車に乗り込み移動開始、こちらもバイクのエンジンをかけ後を追う。
やはりこの男性が浮気相手だ。

まめな暖気のおかげか、今度はすぐにエンジンがかかる。
と言うか、同じ轍を踏む訳にはいかないしね。

慣れているのか、対象者の車は裏道を迷いなく進んで行き、十数キロ離れた県道沿いのコンビニエンスストアに入る。
何を買っているのか見たかったが、ここまで来たら次に控えてるのはホテルである可能性が高い。
ここは我慢。
数分後、重そうに膨らんだビニール袋を手に浮気相手の男性がコンビニエンスストアから出てくる。
男性が対象者の車に乗り発進、県道から折れ、街灯もない細い道をゆっくり進んで行く。
バイクのライトを消し、距離をあけつつ見失わないように慎重に尾行する。


２〜３分位走り、林に囲まれたラブホテルに入る。
バイクを停め、小走りで近付きながら、すばやく駐車場や出入口の位置を確認する。
周りは壁で囲われているが、車の出入口は１箇所、そこからホテルの出入口もその奥の駐車場も見える。
こんなに条件のいい（探偵にとってね）ホテルはなかなか見つからない、運がいい。


林の中に隠れ、２人が車から降りてホテルに入るまでの動きをビデオに収める。
１５分ほど待ち、２人が出て来ない事を確認してから、今度はしっかりと周辺の状況を調べる。
この道はこのホテルより先には行けず、帰るには来た道を引き返し、コンビニエンスストア近くの県道に出なければならない。


朝までになる事を覚悟していたが、２人は３時間後にきっちり出てきてくれた。
ホテルから出てくる映像は、セットしたビデオがしっかり記録してくれているはず、あとは浮気相手であるこの男性の自宅を割り出すだけだ。
ビデオの回収は後回しにして、対象者の車を追う。
来た道を逆に辿り、某駅近くの住宅地へと移動、数本目の路地で停車する。
街灯もなく、対象者の車がなければ何の音もしないような場所、１００ｍほど手前の民家の前にバイクを止め、ゆっくりと徒歩で近付く。
車まであと７〜８ｍの距離まで近付いたところで男性が助手席から降りる。
こちらは、壁もなく、道路との境界に数本の植木があるだけの民家の敷地にお邪魔させてもらう。
植木の陰に身を潜めながら、男性の動向を窺う。
男性は相当酔ってるのか、フラフラになりながら対象者に手を振り、車を見送った後、すぐ近くの一戸建て住宅へ向かう。


「そこか」と思った瞬間、浮気相手の男性は立ち止まり、暫くしてからくるっと振り返り、「おーい」と言った。

「あれ。バレた？」


つづく



探偵 チェイサー