●更新日 09/03●


女探偵の勝負服 (中編)


張り込み開始から約2時間が経過していました。
その頃には車内はサウナ状態と化し、私の身体から溢れ出す汗はタオルで拭いても拭いてもおさまりませんでした。

(あと1時間が限界かも・・・)

弱気になりそうな時、対象者の自宅玄関が開きました。私は慌ててカメラを構え、外出する人物の姿をカメラに抑えましたが、その時の反応の鈍さは自分の限界を知らせているようでもありました。しかし 、調査終了までは約5時間、真夏の太陽は容赦なく調査車輌を照らし続けていました。



「頑張らないと!」

一度大きく深呼吸をし、自分を奮い立たせるようにそう呟きました。溶けそうになっていた身体を強引に起こすと、改めて残りの張り込み時間を確認しました。 そして、一度目を閉じ考え、意を決しました。

覚悟を決めてしまえばあとはその状況を楽しむしかありません。私は自分の着ていたシャツとジーンズを見比べ、周囲の状況を入念に確認した後、「ヨシッ」と気合いを入れました。




「脱いじゃえっ!!」


調査開始から約2時間後、住宅街の真ん中に路上駐車した車内で私は下着姿になっていました。



脱いでしまえばどうして始めからこうしなかったんだろうと後悔するほどの爽快感です。私は決して露出狂ではないので興奮はしませんが、時々調査車輌の真横を通り過ぎていく住民の視線に はドキドキしてしまいました。調査車両の窓にはスモークがはってあるので車内の私の姿が見られているわけではないのですが…。

下着姿にはなりましたが、決して涼しいわけではありません。服を着ているよりはマシな程度です。そんな状況の中で時折思ってしまうことがありました。

住宅街、路上駐車、後部座席に潜む、下着姿、カメラを構える、私は何者?

暑さのせいで意識が朦朧とし、そんなキーワードが頭に浮かんでは消えていました。それでも暑さを乗り切るためにはその方法しか考えつきませんでした。

(この姿を見られたら変態だと思われる…)

そんな事を考える一方で、今自分が身に着けている下着が最近買ったばかりの物であることに少し安心したりもしていました。万が一見られることがあったとしても新しい下着の方がダメージが少ないんじゃないか、そんな可笑しなことも考えてしまっていました。

それから更に一時間ほど経過した時だったでしょうか。私の視界の端に見覚えのある人物の姿が入ってきました。その人物はどんどん私に、というより調査車輌に近づいてくると、対象者の自宅を確認するように 一度その方向に目を向けた後、調査車両のすぐ後ろに立ち止まりました。



そしておもむろに携帯電話を取り出しました。
そのわずか数秒後、着信を知らせるメロディが私の携帯電話から流れました。



つづく



名古屋の探偵マリ



◇上記のタグを自分のサイトに張ってリンクしよう!


探偵ファイルのトップへ戻る

前の記事
今月のインデックス
次の記事