●更新日 08/28●


逃亡先・日本(後編)


六本木で捜査を続けたが残る獲物のザナックに結びつく有力な手掛かりは皆無。
外国人がたむろする場所は何も六本木だけとは限らない、地方へと目を向けた。
ザナックはブラジル系アメリカ人なので、ブラジルタウンがある群馬県へ捜査をおこなったのだ。
町を歩くと日本とは思えないくらいブラジル人で溢れかえっている。



日本人らしからぬ個性的な風体に興味を惹いたのか、ひとりの若者が私に声をかけてきた。
「見ない顔だね、探しものかい?」
言い寄ってくるヤツほど信頼性は薄いが、試してみる価値はある。
その日系ブラジル三世セフリオ(24歳)に顔写真を見せて情報提供を求めた。
「この町のことなら任せてよ、新顔が入れば情報はオレに全部転がりこんでくる」
自信たっぷりなその笑顔をとりあえず信頼することにした。

だがそれから一週間あまりの時が過ぎ、ビザの手続きも終えたのでアメリカに戻りたくなっていた。
そのときにあのブラジル青年セフリオから連絡が入ったのである。
「手配中の獲物ザナックが町に現れて住んでいる」
話し半分で聞いた私はアテにすることなく群馬へと車を走らせた。



セフリオに案内されて獲物のザナックらしき人物が住みはじめたアパートへと足を運んだ。
あいにくその人物は近場の工場で働きはじめたらしく留守であった。
イチかバチか帰宅時間を見計らって張り込んでみることにした。
そして男は仕事を終えて帰ってきた。
顔写真と照らし合わせてみると、何と獲物のザナック本人に間違いなかった。
情報屋セフリオはイカサマではなかったのである。
信頼した私の勘も鈍ったものではない。
慎重に捕獲態勢に入って、そのチャンスを待った。

装備は日本の法で許された範囲の高電流スタンガン、特殊警棒、催涙スプレー、手錠などである。
もうひとつのマル秘アイテムはいざというときに使用するために携帯してきたエアガンである。



日本製のものは本物と見間違えるほどの外観を持っているので、外国人相手にはハッタリに充分使える。ただ当然だが実弾は撃てないので獲物が密売拳銃を所持していれば鉛の洗礼を受けてあの世行きである。その覚悟を決めていきなり押し入ることにした。

ドアノブを静かに廻すとカギがかかっていた。
そこで木造のドアを力まかせにブチ破って間髪入れずに侵入したところ、獲物は泡を食らってその場に尻餅した。
私の手にはエアガンが本物らしく握られていた。

「ザナック、おまえを逮捕してロスへ連れ戻す! おとなしくしろ!」

両手を高く挙げた獲物を手錠で素早く拘束した。
思ったよりも簡単な捕物に驚いてしまったが、リスクや互いに怪我なしでおこなえたのでラッキーであった。
有力な情報を私に提供してお手柄のセフリオには充分なチップを弾んだ。
当然、彼は大喜びだったのはいうまでもない。

逃亡犯ザナックとともに私はアメリカへと帰国の途についた。
無事に獲物は引き渡した。



しばらくはまた故郷の日本ともオサラバである。
再犯もなくアメリカ犯罪者を日本から追い出したので治安を守れたような気分はよかった。



バウンティハンター



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