●更新日 06/05●


伝説の調査員A


ある男性の行動調査に、入社10日目の新人調査員Aを同行させた。
Aはまだ若く、社会経験の乏しい男だった。
そして少々おバカさんである。
なので今回は張り込み用の車番がAの任務だった。

車を使う事の無い対象者であったが、我々は張り込みをする際に車は欠かせない。
対象者が動いた後、行った先に車をまわす。
それが新人調査員Aに与えた任務だった。
近頃の都会は駐車違反の取締りが非常に厳しい。
路上に車を数分放置しただけでも、駐車違反を切られてしまう事態だ。
それを回避するのも車番の任務なのだ。

新人調査員Aは車の運転が苦手なペーパードライバーであった。



コインパーキングに車を駐車するのに20分も掛かるほど・・
なので対象者が動いた後も、出来る限り車を動かさない打ち合わせをして調査に臨んだ。

調査を開始してすぐに対象者が動きだした。
私はAに「車番頼むよ! すぐには動かさなくてもいいから、駐禁されない様にちゃんと見とけよ!」
そう伝え、車の鍵をAに手渡した。
Aをその場に残し、我々は対象者の尾行を開始。
Aは車で待機、我々からの連絡を待っていた。

尾行しだして2時間が経った頃、Aからメールがきた。
その内容は「トイレに行ってもいいですか?」
私はすぐAに電話で「トイレも食事も好きな時にどうぞ! でも駐禁されない様にちゃんと車を見とけよ!」そう伝えて電話を切った。
アイツ大丈夫かな・・
我々は不安になった。
Aは少々おバカさんだからだ・・



それから3時間が経ち、対象者が調査開始場所である会社に戻った。
そこには我々の車が停まっていた。
この5時間、車の移動の指示はしていなかった。
Aは車の外でぼんやりと車を眺めていた。
私はAに「ご苦労様!大丈夫?」と声をかけると・・
A:「はい!車はちゃんと見てました」
そう言われ車を見ると、窓に黄色い紙が貼られている・・駐車違反切符だ・・



私:「何だよコレ!」
A:「ああ・・それなら緑の服を着た人が貼っていきました。」



私:「それを見てたの?」
A:「はい!警察官じゃなかったので・・駐禁じゃないですよね?」
私:「・・・・」
私は呆れて声が出なかった・・
Aは知らなかったのだ・・
駐車違反の取締りをするのは警察官だけだと思っていたようだ。
私:「何で車の中にいなかったの?」
A:「見てろと言われたので・・」
私:「5時間ずっと?」
A:「はい」



Aは本物だった。
我々の想像を遥かに超えたバカだった。

私は自分の説明不足に後悔した・・
こういうヤツもいるんだな・・
調査は問題無く終了し、後日私は仕方なく駐車違反の反則金を支払った。

Aはその後3ヶ月で探偵を辞めた。
その3ヶ月間で数々のバカ伝説を残して・・
後日また報告します。



探偵 虎次郎



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