●更新日 04/14●


ある愛の詩(2)レズとホモと風俗と不貞


「どうなのでしょう? 不貞行為は離婚理由になると聞いています。


レズは浮気……不貞行為になるのでしょうか?」

「え〜〜〜っとですね……」


ここまで“濃ゆい”相談も珍しい。精神的に挫けそうになりつつも説明を続ける。

「結論から言ってしまいますと、不貞行為にはなりません。」

「ならないのですか?」
「法律は不貞行為のことを
『配偶者のある者が、自由意思に基づいて配偶者以外の異性と性的関係を結ぶこと』
と定義しています。


配偶者以外の「異性」と、です。

ですので奥様の場合、不貞行為としては成立しません。」

「なるほど。」

一応、うなずきつつも不満顔の依頼者。

「しかし、それでは理不尽ではないですか? たとえ女同士とは言え性的関係を結んでいるのですよ?


「厳密に言うと、奥様は性的関係を結んでいることにもならないんですよ。」

「と、いいますと?」
「法律上で性交とは「性器に性器を挿入すること」と定義されています。
ところが奥様の場合、女性同士ですので挿入するべき性器がありません
ですから“レズ”は性行為と認められないわけです。」


「ふむ……では、ホモなら性行為になるのですか? 挿入する性器があるわけですが?」
「あれは「性器」を「排泄器官」に挿入しているんです。」
「ああ。そういえばそうですね。」
「ですからやはり、性行為とは認められません。つまり、どういうことをしようと、

同性愛は不貞行為にはならないんです。」


「そうですか……ちなみに、ちょっとご質問なのですが?」
「はい、どうぞ。」
「不貞行為とは『配偶者以外の異性と性的関係を結ぶこと』とおっしゃいましたね?」
「いかにも言いました。」
「では、風俗はどうなのでしょう? 風俗店で性行為を行った場合、これは不貞行為ということになるのですか?」

「それを説明すると話が長くなりますから、今はやめておきます。読者の希望が多ければご説明する機会もあるでしょう。」
「なんですか、読者って?」
「いえ。こちらのことです。まあとにかく、
そんなわけで奥様のレズ行為は不貞行為には該当しないわけです。
「なるほど。」

依頼者は複雑な表情で納得する。

「そうすると、知らずに同性愛者と結婚した者は、それを理由に離婚することはできないのですね。」
「いえいえいえ。早合点してもらっては困ります。」

私は小さく手を振りつつ説明を続けた。

「法律が認める「離婚理由」は5つあります。
@不貞行為
これは簡単。配偶者の浮気です。夫婦の「貞操義務違反」ということで、離婚の理由になります。
A悪意の遺棄
生活費を全然払わないとか、家出して別居をはじめたりとか、片方が夫婦としての生活を放棄してしまったような場合です。
B3年以上の生死不明
生きているのか、死んでいるのかわからないような配偶者と、ずっと夫婦を続けろ、というのも酷ですからね。
C回復の見込みのない精神病
本来、夫婦間で助け合うべき状況とも言えるのですが、あまりに片方に負担がかかり、夫婦としての体をなさないとなれば仕方がありません。
D婚姻を継続しがたい重大な事由
上の4つに該当しなくても、客観的に見て「これじゃ、夫婦関係の継続は無理だよ」と認められる場合です。「性格の不一致」とか「DV(ドメスティックバイオレンス)」とかが代表的ですね。

奥様の場合、Dに該当するでしょう。
レズやホモは性行為でこそありませんが『性交の類似行為』とされます。その『類似行為』を頻繁に行われては、配偶者はたまったものではありません。
これは『婚姻を継続しがたい事由』として認められます。


「では、妻が特定の相手とレズ行為を頻繁に行っている証拠を握れば?」
「十分、離婚の理由として認められることでしょう。」


こうして、妻のレズ行為の証拠を握るべく調査が依頼されたのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(とはいうものの……)
依頼者が帰った事務所で、私は一人、頭をひねっていた。

(同性愛行為の証拠をとるにはどうすればいいだろう?)
(とにかく、奥さんの行動を調査して……)
(しかし、女二人でラブホテルに入ったところで、証拠にはなりにくいだろうなぁ。)
(「友達同士で休憩していただけだ!」と言い張られたら、それまでだろうし……)
(う〜〜ん……)

悩んでいると、電話が鳴った。

先ほどの依頼者からだった。

「探偵さん。たった今、帰宅したところなのですが。」
「はい。先ほどはお疲れ様でした」

「妻がおりません。」

「……はい?」


「家の中から妻の荷物が全部消えております。
そして『書置き』が残されています。」


「なんと書いてありますか?」
「書いてあるのは一行です。」

『探さないでください。  妻より』




「探偵さん。どうしましょう?」



(ああ……)
(さらにややこしいことになってしまったか……)



つづく



特捜班:九坪



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