●更新日 04/11●


ある愛の詩(1)夫婦の濃い事情


「妻はレズです」

その男性依頼者は、そう言ったきり黙ってしまった。

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黙ったまま、じっとこちらを見ている。
まるで、こちらの反応をうかがっているかのようだ。

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「ああ……そうですか」

だいぶ間をおいた後、私はそう答えた。
ほかにいい返答も思いつかなかったので。
依頼者は私の返事を聞いて、ひとつ頷き、言葉を続けた。

「そして、私はマゾでした」

「ああ……そうなんですか」
私はそう答えた。
我ながら面白くない返答だと思うが、他に思いつかなかったのだから仕方ない。



「知り合ったのは、とあるSMクラブです」
「はい」
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「その店はSMショーも上演するお店でして」
「はい」

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「妻は女王様でした」
「はい」
レズの女王様です」
「なるほど」


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「で、私がマゾの男奴隷です」
「なるほど」
「といっても、ショーの役どころの話でして」
「はあ」
「本当に“女王様”だったり“マゾ”だったりしたわけではありません」
「そうなんですか」
演じていただけです」
「ふむ」

「しかし、ああいう店は、そう長く勤めるようなものではありません」
「そうかもしれません」
「二人とも、それぞれ店を辞め、普通の仕事に就きました」
「よかったですね、と言うべきでしょうか?」
「しかしその後、偶然、街で再会しまして」
「ほう」
「交際がはじまり、やがて結婚することになりました」

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「おめでとうございます」
「夫婦生活は至ってノーマルでした」
「そうですか」
「“S”でも“M”でもありません」
「そうなんですか」
「お互い、演じていただけですから」
「なるほど」

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「しかし、最近になりまして、妻の行動がおかしくなってきたのです
「と、言いますと?」
「帰宅が遅くなったり、頻繁に誰かとメールのやりとりをしていたり、休日に行き先も告げずに外出したり、そのまま一晩帰らなかったり」
「浮気の兆候ですね」
「はい。私もそう思いました。そこで、妻を問い詰めたのです
「なかなか、認めはしないでしょう?」
「はい。しかし、こちらも必死です。力の限り問い詰めました
「強気に出たわけですね」
「はい。マゾを演じていたのは昔の話です」
「ほう」
「しかも、ショーの役どころの話です」
「ほほう」
「私は真性のマゾではないのです」
それはわかりました。続きをどうぞ」

「ついに先日、妻が浮気を認めたのです」
「ふむ」
「しかし、相手の名前は言いません
「なるほど」
「しかし、それでは私も納得できません」
「それはそうでしょう」
「更に問い詰めますと、やっと相手のことを白状しました
「名前がわかったのですか?」
「いえ。名前はどうしても言いませんでした。しかし、相手が女性であることを白状しました
「そうですか」

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レズです」

「う〜む」
同性愛です」
「うう〜む」

「そこで探偵さんに質問です」
「はい、どうぞ」
「レズは浮気……不貞行為になるのでしょうか?」


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(……こ、濃い)
(こゆい〜なーおい……)

ここまで内容の濃い相談も珍しい。
なんとなく精神的に挫けそうな気分になってきた。

つづく



特捜班:九坪



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