●更新日 03/07●


老ガナッシュの逃亡


荒木です。



アメリカの犯罪者であればお年寄りとてナメてはいけない。
逃亡犯マイク・ガナッシュ(62歳)は、コソ泥の常習犯である。
人間は一度に犯罪に手を染めると棺桶に入るまで治らないらしい。

ガナッシュはスーパーマーケットの金物売り場で工具箱を盗み、店員に取り押さえられて市警に引き渡された。
のちにベイルボンズから保証を受けて公判まで自由の身となったが逃亡。
私に獲物追跡の白羽の矢が立った。

逮捕時のプロファイルからガナッシュにはひとり娘がいるというデータを入手。
それが行方の手掛かりになるような直勘が私の中で働いた。

己の勘を信じて行動を起こすのは大事である。
思いつきだけで躊躇すると事は先へは進まない。
さっそく娘のアドレスであるロングアイランドへ車を走らせた。



現地へ到着するとアパート階下のネームプレートにて本人を確認し、すぐに張り込み態勢に入った。
夕暮れどき、直勘が的中して何とガナッシュが視界に現れた。
逃亡者は娘の家に身を寄せていたのだ。

若ければ銃火器で武装して潜伏しているのが一般的だが、ガナッシュは高齢だからそれのほうはいくらか安心であろう。
獲物を目前に見つけたのはいいが娘も同行しているではないか。
いきなり捕らえて逆上した犯人が暴れだす可能性もあるので危険だ。
そこでヤツが単独になるそのときを待つことにした。



翌日の早朝、一夜寝ずに明かしたせいで睡魔が襲ってきたときにアパートからガナッシュが現れた。
幸い娘とは一緒ではなかったので捕獲のチャンス到来である。
おまけに朝なので通行人もなく、銃撃戦になったとしても罪なき他人を巻き込むリスクもないのでこの場を逃すわけにはいかない。

腰だめにした愛銃コルト45口径自動拳銃のホルスターのフックを外して、降車しガナッシュに歩み寄って叫んだ。

「ガナッシュ、ベイルエージェントだ! 抵抗せずに両手を頭上に挙げろ!」

その言葉に驚いて逃亡者はおとなしく降伏した。



だが手錠をかけて当局に連行するまで気は緩められない。
相手が子供であれ年寄りであれ、犯罪者の行動力学は信用できない。
護送中に隙をつかれて殉職したエージェントは数多い。

だがガナッシュは無駄な抵抗をすることもなく留置場まで借りてきた猫のようにおとなしかったのだ。
ひとり娘のことを配慮してのことだったのかもしれない。
獲物の報酬は二千五百ドルだった。



ガル探偵学校



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