●更新日 05/27●


女探偵ケイト・サンダース(前編)


荒木です。


アラバマ出身のケイト・サンダース(30歳)には手こずらされた。
彼女は同業のハンターでも警官でもない。
私立探偵を生業とするロス在住の女性である。

出会いは逃亡犯ベン・ラッシュ(36歳)を捜査しているときだった。
ラッシュはガソリンスタンドで強盗未遂をはたらいて起訴されたのだ。
ベイルボンズが保釈金を保証して公判の日まで自由の身となったが、出廷せずに逃走を図った。
罪状を考えると賞金はUS9000ドルと安値だが、ラッシュを獲物に決めて追跡を開始した。
ラッシュ逮捕時のプロファイルには既婚のデータが記されていたので、妻のマリーを初動捜査の対象にすることにした。
獲物は必ずや家族との連絡を試みる筈である。



ラッシュのアパートはサンタモニカ海岸近くの裏通りに面していた。
私は電話の配電盤にテープレコーダー付き盗聴器を仕掛けてその場を去った。
いつもならば暫くは張り込みをおこなうところだが、今回は他の急ぎ案件も抱えていたのだ。
ラッシュの逮捕期限は70日あるので慌てることはない。

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直に捕らえるべく獲物はアレックス・フーパー(40歳)、スリの常習犯である。
地道な捜査の末に90%間違いない潜伏場所をつきとめていた。
もしも私の嗅覚と情報に誤りがなければ捕獲できる筈である。
あとのデッド・オア・アライブ(生死)の別れ道は運のみぞ知るというものだ。
街の情報屋にチップを弾んで入手したフーバーの潜伏先は、リトル東京から約15kmのパサディナ地区のアパートメントである。
その夜、現地へと急行した私は本人確認のために張り込んだ。

四時間ほど経過した頃、目指す獲物が視界に入った。
相変わらずの仕事の手際の良さに思わず自分を誉めてやりたくなった。
だが悠長に甘んじている場合ではない。
生死を賭けた捕物をとりおこなわなければならないのだ。
銃火器などの装備を手早く再確認した私は降車して、獲物との距離を空けて後を尾けた。
そしてアパートの階段を上がって行くと暫くして瞬時に殺気を感じてしまった。
獲物の銃口がこちらへ狙いが定まっていたのである。



体内のアドレナリンが逆流するのを感じたが、この瞬間が心地好い。
乾いた轟音と共に私めがけて一弾が飛来してきた。
弾は私をかすめて壁にメリ込んだ。
人間に向けて銃を撃つのは好まないが、お見舞いされた以上はお礼するしかない。
小型のレミントン社製12ゲージ・ショットガンでレーザーサイトを照射して幾度か威嚇射撃をおこなった。

散弾ではなく強力なパワーを誇るスラッグ弾の破壊力は素晴らしい。
獲物を避けて弾を食らった壁は粉々にえぐれた。
その迫力に驚いたフーパーは銃を放りだして白旗状態で両手を高く挙げた。

「撃たないでくれ!投降する!」

無駄な抵抗をしなくなったフーパーにハンドカフスをはめて、私の車に押し込んだ。
だがただ乗せるだけでは暴れて再逃走される危険性もあるので、拘束用特殊ベルトを装着させてシートベルトに巻きつけた。
そのまま留置場まで獲物をトランスポートして、ベイルボンズから賞金を受け取って任務終了である。
フーパーの報酬額はUS3000ドルだった。
アメリカではこれで一月楽に暮らせるというものだ。

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急ぎの仕事をサクッとこなした私は休むことなく、やりかけのラッシュの捜査にかかる事にした。
ラッシュの妻であるマリーが住むアパートに向かった。
仕掛けた盗聴器のテープを確認するためである。



だがあろう事か電話の配電盤を確認してみると、テープが無くなっているではないか。
確かにセットした筈なので何者かが抜いたのは間違いなかった。

「しかし誰が何のために?」



バウンティハンター



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