●更新日 05/26●


探偵の悲しい恋事情(前編)


探偵はターゲットを尾行し、様々な場所に行くことが出来る。
国内外問わず、今まで足を踏み入れたことが無かった場所へ行くことが出来るのは探偵の特権の一つでもある。
しかし、その特権も場合によっては自身を苦しめることになる。

その悲劇は突然襲ってきた。
当時付き合っていた女性との交際期間は3ヶ月。何度目かのアプローチでようやくオッケーを貰った念願の彼女だった。
ある日、彼女と久しぶりのデートをしていた時のことだった。

「どこか旅行に行きたいね」



突然の彼女からの提案に私は有頂天になっていた。探偵の仕事は昼夜関係ない、3ヶ月間付き合っているとはいえ、デートをした日など数える程しかなかった。彼女が旅行の提案をしてきたのも会えない寂しさがあったのだろうと自分なりに解釈していた。

「行き先は2人がまだ行ったことがない場所にしようね」

旅行の計画を立てている時の彼女は本当に楽しそうだった。私としてもそんな彼女の笑顔を見られることは最高に幸せだった。

そして、行き先は沖縄に決まった。



私も彼女も行ったことがなく、2人がいつか行きたいと思っていた共通の場所だったからだ。
旅行の日取りも決まり、全てが順調に思えた。

旅行直前に飛び込みで受けた依頼も私の足取りを重くするものではなかった。この調査が終われば彼女と沖縄に行ける。いつになく張り切る自分がいた。


そして・・・


見渡す限りに広がる青い海、沖縄の空の青さや海の透明感は他のそれとは全く違うという話を聞いたことがあったが、それが嘘ではなかったことを目に当たりにした。
天気が良くて本当に良かった・・・そう思いながら隣を見た。パラソルの下で私に微笑みかけたのは愛しの彼女とはかけ離れた物体だった。

「辛気臭い顔しないで下さいよ。せっかくの沖縄なんだから」



そう言って買ったばかりの海パンをアピールしたのは後輩の調査員だった。私は殴りたい衝動に駆られたが、殴る気力は既に残っていなかった。


彼女との沖縄旅行直前に入った調査は40代の女性からの依頼だった。

「出張に行く夫の行動を調べて欲しい、東京から名古屋に行く予定なの」

その予定のはずだった。しかし蓋を開けて見れば羽田空港で浮気相手と待ち合わせ、そのまま2人で飛行機に搭乗し、沖縄に向かったのだった。
対象者が購入した沖縄行きのチケットを確認した時、私は驚きと焦りで次の行動を躊躇してしまった。
それは調査が継続出来るかどうかの焦りではない。そのような状況はよくあることなので慣れていたが、あと2日に迫った彼女との沖縄旅行のことを考えると足取りが重くなってしまっていた。

その結果、私は彼女との共通点は年齢だけという後輩と沖縄行きの便に搭乗することになってしまった。

「行き先は2人がまだ行ったことがない場所にしようね」

真っ青な空と海を眺めながら、彼女が笑顔で言った言葉を思い出していた。

しかし悲劇はまだ幕を開けたばかりだということに私は気づいていなかった。



つづく



探偵コフジ



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