●更新日 08/21●


韓国人スン・ジョンヨクの策略(前編)


荒木です。


無論だが私も休暇をとるときはある。
その際は思いきり長めにしている。
半端な短期間では休んだ気分になれないから、それならば立て続けに仕事をこなしていたほうが落ち着く。
ちょうどそのバケーションプランを思案しているときに電話のベルが鳴った。
LAベイルボンズのボスであるトニーからだ。
仕事依頼の連絡に休暇気分は一気に吹き飛んだ。
私は根っからこのハンター稼業が三度のメシよりも好きなのは間違いないので、呼び出されると問答無用で動く性分だ。
それに親友の頼みならばなおさら断れない。



休暇返上して受けた案件は、韓国人逃亡犯スン・ジョンヨク(26歳)を捕らえて引き戻すことであった。
スンは韓国レストランの厨房で真面目に働く青年だったが、職場の同僚を殴打して逮捕された。
LAベイルボンズに泣きついて保釈されたがジャンプして行方をくらました。
逮捕期日まであと残りわずか7日しかなかったが、ボンズですでに有力情報を入手していたので楽な仕事だと思ったのだ。

ジョンヨクは故郷の韓国に高飛びしたらしい。
実家に匿われているのは間違いないということなので捜査不要で連れ戻すだけの案件だった。
行って来いでUS3000ドルの懸賞金は有難い。
普段が命がけのキツイ仕事ばかりなので、たまにはお気楽な場合があってもバチは当たらないというものである。
一路、韓国のソウルへと飛んだ。



韓国も以前に何度も訪れたことがあるので首尾はよかった。
インチョン国際空港に到着した私はソウル市内へとタクシーで向かった。そしてダウンタウンの安宿をリザーブした。
いくら捜査済みのイージーな仕事といえども、いったん着手すれば落ち着かない私はすぐに休まずに動き出した。
獲物のジョンヨクの実家はイテボンという街の裏手にあった。
多国籍人種が徘徊するインターナショナルな繁華街である。
日本で云えば六本木みたいなところだ。
歩くとウザイ外国人娼婦たちがしつこく声をかけてくる。
また路地裏では麻薬密売人みたいな輩も見受けられるある意味で治安が悪い場所である。



それを抜けて暫くすると繁華街の喧騒とは様相の異なる静かな住宅地が点在する。
ジョンヨクの実家の様子を窺った。
両親の姿は窓から確認できたが目指す獲物スンの気配はなかった。
そこで電話をかけて試すことにした。
身分を偽ってかけてみると母親がでたが本人は留守で暫くは顔を見せていないという事だった。
一瞬、不安が脳裏を過った。

「情報は正確ではないのでは?」

やはり己の手で地道な捜査(調査)をしなければ人の仕事の手を借りて甘んじているようではダメであると思った。
万が一は協力は有難いものだが、人はアテにはならないのである。
もしも事前捜査が誤りであれば急遽やり直すが、タイムリミットが迫っている。
ご自慢の嗅覚を研ぎ澄ましてみた。
そこでアメリカのボンズに電話を入れて打診。
誰から獲物の潜伏先の情報を入手したのかを調べたかったからだ。
すると匿名の通報であることが判った。
何と私はそれで動いていたとはとんだ誤算だったが、請け負ったいじょうはマイプライドを賭けて手ブラでは帰れない。

直感でガセネタをLAベイルボンズにわざわざ流した人物は獲物本人だと思った。
心理学的見解でそう判断したのだ。
もしもそうならば獲物ジョンヨクは実家の近辺にいる。

(つづく)



バウンティハンター



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