●更新日 08/15●


女探偵のバカンス(前編)


の季節は探偵にとってもバカンスの季節です。
ただ探偵が過ごすバカンスには常にターゲットが同行しています。と言うよりも同行しているのは探偵のほう。「ターゲットが浮気相手と過ごすバカンスを調査するついでに夏を楽しめ」というのが探偵にとって夏を楽しむ唯一の方法だと教えられました。

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夏になると今年はどんな調査が入るんだろうと不謹慎ながらワクワクした気持ちになってしまいます。その中でも調査に行きたい場所の ナンバーワンはもちろん海です。ターゲットが海に行く可能性のある案件は調査員同士で争奪戦になることも度々ありました。

しかし私は毎回その争奪戦に破れて(下っ端だから)、変わり映えのない市街地での調査を担当することが多かったのです。

しかし、ある夏の調査の時でした。
その夏も私はいつものように他の調査員が遠出の案件に出払っている中で、「暑いところが嫌いだから海など行きたくない」と言っていた先輩調査員と共に事務所から10キロ圏内の場所で調査を行っていました。

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「私も海に行きたいですよ〜」暑苦しい車内で先輩に愚痴りながら張り込みをしているとターゲットが動き出しました。

その調査の内容はよくある浮気調査でした。調査に至った切っ掛けは「仕事終わりからそのままゴルフに出掛ける言っている夫の様子がなんとなく怪しいから」ということだそうです。ゴルフをやらない私にとっては前のりすることが不自然なことなのかどうかは分かりませんでしたが、妻の勘は当たるということはこれまでの調査で充分理解していました。

ターゲットは勤務先近くの駐車場に停めてあった自家用車に乗り込み、発進しました。しばらく尾行するとターゲットの行き先が読めてきました。空港です。
そして予想通り空港に着いたターゲットは駐車場に車を止めました。車内でスーツから私服に着替え車から降りたターゲットがトランクを開けボストンバッグを取り出した時、 その中に入っていたゴルフバッグが私の目に入りました。
しかしターゲットはそのゴルフバッグを取り出すことなくトランクを閉め、ターミナル内へと歩き出しました。

その時、なんとなく予感がしたんです。「もしかしたら」と。決して自分が強運ではないことは20数年で生きてきた中で理解していたので、願うしかありません。

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「お願いします〜。私をバカンスに・・・」

ターミナル内へと入って行ったターゲットは足早にチケットカウンターへと向かいました。その様子を撮影しながら先輩からの連絡を待ちました。ターゲットがチケット の購入を終えたことを確認し、携帯電話を握る手に力を込めました。
間もなくして着信が入り、私はターゲットから目を離さないよう通話に切り替えました。


「お前の願いが通じたのかもな、那覇行きだぞ」


先輩からその報告を受けたときの私の顔はきっと期待でキラキラと輝いていたと思います。


「ホントですかぁ」


そう思わず声を上げてしまい周囲の人たちから怪訝そうに見られましたが、そんなのお構い無しで聞き返しました。


「勿論行くんですよね」


「女と会えばな」


先輩の返答が耳に届いたとほぼ同時に、ターゲットはサングラスを頭の上に乗せたいかにもこれからバカンスに行くという雰囲気を醸し出した女性と接触しました。



つづく



名古屋の女探偵マリ



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