●更新日 07/14●


ロシアへの逃亡者(後編)


吹き矢といえどもスポーツ競技用の物はナメたものではない。
無風状態で優に100mいじょうも飛ぶのも存在するのでハイパワーだ。

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矢の先端に付着させる睡眠剤は濃度の高い医療用麻酔薬を薬剤師から仕入れた。
当然だが非公式でUSドルで謝礼を弾んでのことだ。
あとは街灯がない山中の現場なのでナイトビジョン(夜間暗視スコープ)を購入。
さすがロシアはアメリカとは違い軍事用品が格安である。
高性能の物がUS100ドルで手に入った。
ヘッドギアがついているので頭に装着して手放しで動けるから便利だ。
道具を利用するので両手は常に空けておきたい。
その夜、それらの装備を用意して再びカプスタの家へと車を走らせた。
私は山林の茂みを獲物を狙うピューマのように静かに忍び寄り、表で見張り番をしている男たちを手早くつぎつぎにブローガンで眠らせていった。

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根性のあるマフィアであれば傷は針の痛みだけなのでたいしたことはない。
だが目覚めたら即座に私を殺したい衝動にかられるだろう。
ふたたび遭わないことを願いたい。
家に忍びこむと中にもふたりいたが眠っていただいた。
目指す獲物のボドロフは慌てふためいたが拳の一撃を食らわせておとなしくさせた。
鼻の骨がきしむ音がかすかに聞こえたが、鉛弾よりは遥かに有難い制裁である。
他のハンターであれば銃のトリガーを引いているケースが多いからだ。
獲物に手錠をはめて車に押し込むと一路ハイスピードで市街地へ急行。
トランスポートの手段は長距離バスで中国へ入ることにした。
飛行機だと眠りから目覚めた連中に空港で待ち伏せを食らうのは間違いなかったのでそのトラブルを避けるためだ。
空港での銃撃戦は願い下げである。
とは云え飛行機が早道なのは当然で、出来ることならば獲物との道中は短時間が有難いとは捜査官ならば誰しも思うことだ。
犯罪者と肩を並べるのは気分が悪い。

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バスターミナルで獲物を同行させた私は北京行きの国際バスへ乗り込んだ。
拳の一撃が効いたのか道中の車内で獲物のボドロフはおとなしくしていた。
再び食らうのはさぞかし嫌だったのだろうと思った。
私は暴力主義者ではないが職務のためなので場合によりけりでいたし方ない。
中国の北京からは飛行機でアメリカへと帰国の途についた。
この際も獲物にパンチを食らわせる必要はなかったので楽だった。
ただ見張りのための睡魔との闘いはツライものがある。
だが寝ている間に逃亡されては洒落にもならないので、いつもながらひたすら耐えるしかない。
LAX国際空港に到着するとすぐに留置場まで直行して担当官に獲物を引き渡した。

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長い道のりを獲物と同行していたので解放された喜びは一入である。
また睡眠を全然とっていなかったので疲労も半端ではない。
その日から二日間に亘り爆睡してしまった。



バウンティハンター



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