●更新日 07/07●


理想と現実


ずっとずっと役者をめざしていたアタシは、25歳を過ぎて突然目が覚めた。
「芽なんか出ないんだ」
小学生の頃から役者に憧れ15年。
の、わりにあっけない最後だった。
多少の心残りはあるものの、ちょうどその時つきあってた不倫中の彼が、
「オレ離婚することになった」
なんて報告をしてくれたもんだから、勢いにのって貧乏役者からの卒業を決意した。

その『彼』の離婚理由だが、実は『彼の奥さん』も不倫をしていたのだ。
で、なんで『彼の奥さん』の不倫がバレたかと言えば、『彼の奥さんの不倫相手の妻』が探偵をやとったのだ。 これが私と探偵の始めての出会い。

何も知らなかった私の彼は、その証拠写真の沢山載った報告書をみて愕然としていた。
騙しているつもりが騙されてたワケだからそりゃビックリするわな。

そんなことはさておき、私は初めての「探偵の世界」との接触に心が躍った。
「探偵」なんて本当はいないと思ってた。
前に住んでいた部屋の隣のお兄さんは、「仕事は探偵」と何かの折りに言っていたが、ずっとギャグだと思っていた。

そしてある日、その念願の「探偵」に会えることになった。
初めての「探偵」に期待も膨らむ。
寡黙なのか陽気なのか陰険なのかちっとも想像が出来ない。
はやる気持ちを抑え、その「探偵」がいる事務所に向かった。

その事務所は2階にあるのだがさすが探偵の事務所、外階段の場所がまったくわかんねぇー。
ぐるぐるぐるぐるビルの周りをまわってようやく階段をみつけた。
幅の狭い階段を上っていくと「○○探偵社」の扉があった。
すげぇー古い木の扉だ。たまらない。中から工藤ちゃんが出てきそうだ。


 探偵といえば工藤ちゃん♪


ノックをすると中から男性の声で「どうぞ」と言われた。
勢いよく扉をあけ、
「はじめまして。ワタクシ探偵希望の田中です」とドキドキしながらあいさつした。
顔をあげるとそこにいたのは、




ただのオッサン。



おっさん。






( ̄ェ ̄;) あれ?


歳のころは50代後半。
四角い大きなめがねをかけ、チェックのシャツをジャージのズボンにの中に入れている。
しかもジャージのすそが、


すぼまってる。








うひょ。




このまま扉を閉めて帰ってしまいたかったがそれも出来ずそこにとどまる。
探偵改めおじさんは本当に不機嫌そうな顔をしていた。
しかし、少し話しをしてみると悪い人ではなさそうだ。
不機嫌なのではなく、不機嫌そうな顔の造りなだけだった。
私はそこで探偵の大変さ、楽しさ、やりがいなどを2時間近く聞かせてもらった。
そこで私は探偵になることを決意したのだ。
そして、最後におじさんが言った。

「女探偵は美人は駄目なんだ。美人だと目立つし何かと不便だ。しかし、
その点だけはオマエは合格だ


ブスってことかい。



ちっ。


しかし不思議なことにこのセリフが今でも私の支えになっている。
ブスでよかったと思うのはこの時だけだがな。
ってことで役者をめざしながら不倫をしていた私は探偵になった。
人生なんてどこでどう変わるかわからないもんだねぇ〜。
ちなみこの「おじさん探偵」とは今でも仲良しです。



たなかはなこ



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