●更新日 04/03●
夫婦探偵の弊害
どんな職場にも職場恋愛というのはあるもので、探偵だって例外ではない。
それが上手く行くと、その二人は夫婦で探偵ということになる。
「夫婦(めおと)探偵」というやつだ。
夫婦がペアを組んで調査に当る姿は、見ていて微笑ましかったりするのだが、別の問題を生み出したりもするわけで……
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とある男性からの依頼。
「風俗店に勤める女性に、特定の彼氏がいるかどうか調べてほしい」
というもの。
通常、風俗関係の女性の調査は難度が高い。
客のなかにはタチの悪い男もいるせいか、普通より警戒心が強いのだ。
しかも今回、わかっているのは「顔」と「勤めている店」だけ。
厄介なことに源氏名すらわからない。
そこで『一人が客を装って店に入り、ターゲットの風俗嬢を確認。店から出てくるターゲットを追跡する』という作戦がたてられた。
他の調査との兼ね合いもあり、その潜入調査を夫婦探偵の夫が担当することになる。
仕事とはいえ、妻公認で風俗店に入るのだ。すまなそうにする夫探偵に、妻探偵は、
「いいよ。仕方ないじゃない。」
にっこりと笑いながら理解を示した。
しかし、調査は難航した。
どうやら、その風俗店は多くの女性が不定期に出勤するタイプの店らしく、なかなかターゲットの風俗嬢を確認することができないのだ。
そのため、夫探偵は何度も何度もその店に通うことになる。
妻の目の前で「風俗通い」する夫。妻が面白いわけがない。
だが妻探偵は怒ったりはしなかった。
「気にしないよ。全然、平気。だって仕事だもの。」
ニコニコと、笑顔で理解を示し続ける妻探偵。
しかし、同僚の探偵達にはわかる……見える。その背中から、
青白い“怒りのオーラ”が噴きあがっているのが!
事務所内で妻探偵の口数が少なくなっていく。夫探偵の口数も減る。
夫婦の間の空気が硬く、冷たく、張り詰めて行く。
同僚探偵も遠慮するかのように口をきかなくなる。
まるで爆発物の隣にいるような緊張感が事務所内を満たしてゆく。
(……重い。)
(……空気が重い。)
(この雰囲気には耐えられない。)
(早く……)
(早く、ターゲットを確認してくれ!)
(一刻も早く!)
そう願いつつ、同僚達は大人しくプレッシャーに耐え続けるしかなかった。
やがて、夫探偵から連絡が入った。
「ターゲットが確認できました。今日、店に出勤しています! 合図するので尾行してください。」
同僚達は一斉に立ち上がった。
「いくぞ、みんな!!」
「おう!」
一同は気合いをいれて調査に出発する。
調査成功のために。というより、早くこの案件から逃れたいがために。
(きっと、今日の調査は成功するだろう。)
その様子を見ながら所長はそう思った。
(これほど、皆の心が一つになったことはない。)
(相手が風俗嬢だろうと関係あるものか、きっと成功する。)
(……っていうか、成功してくれ!)
(俺もこれ以上は耐えられない。失敗してくれるな! 頼む!)
探偵の仕事は男女の機微を扱うことが多い。夫婦探偵はその機微に通じていることが良い点と言えるだろう。なにしろ、このような職業で、紆余曲折の末、結婚した男女なのだから。
しかし、一方、今回のように周囲を困らせてしまうことも多いのである。
探偵:M
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