●更新日 04/01●


新人探偵はくじけない


これは私の実感なのだが、探偵・調査員には太った者がいない
中肉中背か、痩せ型の者ばかりである。
まれに肥満した人が入社してくることはあるが、そういう人もすぐに痩せる
中肉中背の体型になるか、もしくは、すぐに辞めてしまう。
なぜだろう?
肥満体型ではつとまらない職業ということなのかもしれない。

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その新人は実に体格のいい男だった。

引き締まった筋骨隆々たる肉体の持ち主。

聞けば毎日トレーニングを欠かさず、プロテインを愛飲し、肉体改造にいそしんでいるのだという
毎日のハードトレーニング。日頃から鍛えているせいか、自信もたっぷり。
まるで「ボクにできないことはありませんよ」とでも言いたげな雰囲気を身にまとっている。

しかし、この仕事は不規則で不健康。特にこの数日は仕事が立て込み、徹夜や食事抜きの連続。
彼を含め、探偵達は疲労困憊していた



そんなある日の尾行調査。対象者は女性。
調査の目的は「居住先の割り出し」。勤務先から尾行し、どこへ帰るのかを調べることになる。
ベテラン探偵たちに混じって、新人マッチョ探偵である彼もこの調査に参加した。

調査当日。
夕方に勤務先を出た対象者女性は、最寄の駅から電車に乗り、ある駅で降りた。
そして、駅の自転車置き場へ向い、駐輪していたママチャリに乗って走り出したのだった。



Q.こういう場合、探偵はどうするか?
A.走るしかない。


やむなく、探偵たちは全力疾走。


幸い数分間の走行で対象者は帰宅。無事、居住先を確認することができた。
ほっとするベテラン探偵たち。
改めてあたりを見回すと、例のマッチョ探偵がいないことに気がついた。

そう。
彼はママチャリに乗った女性に追いつけなかったのだ。

度重なる徹夜、不規則な生活が続くなか、日々の鍛錬を休まなかったマッチョ新人探偵。
すっかり体調を崩した彼は、その体力を肝心な時に生かせなかったのである。

彼は落ち込んだ。


(ママチャリごときに敗れた……っ!)
(日夜鍛えているというのに、)
(ママチャリに乗った女性に負けた。)
(俺は……俺は……)
(ママチャリ以下の男なのだ!!)



探偵に必要なのは、恵まれた条件下でのみ能力を発揮する「高性能な身体」ではない。
悪条件下においても長時間稼動できる、いわば「ストレスに強い身体」なのである。

適度なトレーニングは非常に良いことだ。
しかし、不規則な生活の中で能力を発揮せねばならない探偵にとって、
体調を崩すようなハードトレーニングは禁物なのである。
それを考慮せず、無闇に体力を浪費して体調を崩し、疲労を溜め込んでしまったのが彼の敗因だった。

落ち込み、打ちひしがれた彼は、その翌日から、


「スクワット」と「ランニング」の量を倍にした。


(今度は下半身を徹底的に鍛え上げるのだ!)
(ママチャリなんぞに負けてたまるかっ!)


彼の目は、まだ覚めない。
「ムチャな筋トレはやめろ」というのに聞きゃしない。

新人探偵の挑戦はいつまでも続くのであった。



KEN



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