●更新日 06/28●
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『あなたの周りのサイコパス、あるいは人格障害②』精神科医ヤブ





前回のつづき



診察室では仏のヤブさんとも言われ、スタッフから「先生、よく怒りませんね」と驚かれることもある私だが、ことプライベートに関しては厳しい。ましてここまでコケにされると黙ってはいられない。私はM君の嘘について、徹底的に証拠を集めてM君につきつけた。それでもM君は、のらりくらりと「こじ付けにすらならない嘘」を上塗りしていく。ピアノは優勝したが証拠がない、学業も証明できない、学費は無料だがそれも真実だと伝える術がない、等々。すでにどれも嘘だと判明しているのに、M君は明るい笑顔で嘘をすらすらと語るのだ。



ただ一つ、白血病については、

「君、白血病じゃないだろ」

という問いに対して、

「はい」

と真剣に頷いた。しかし決して、嘘でした、とは言わない。

「あの時には血液検査のデータからして、慌てて白血病だと勘違いしてしまいました」

などと言う。こちらは呆れてものも言えない。



サイコパスや人格障害の人の嘘は、底が浅いことが多い。綿密に練られたものではなく、その場の思いつきで、最もウケそうな内容を瞬時に組み立てて披露するのだ。そのあたり、知能犯罪的な詐欺師とは少し違う。彼らはあくまでも「一瞬のカリスマ」であり、舞台設定なんて覚えていない。というより、そんな設定は存在しない。それどころか、前後の自分の言葉すら覚えていない。あるいは整合性にとことん無頓着である。



この「整合性に無頓着」というところが、正常人とは大きく違う。普通、人は過去の自分の言葉に縛られる。普通の人は、嘘は嘘なりに、積み木をつみ上げるようにして虚構を築いていくものだ。ところが、彼らにはそういう過去の束縛がない。「今この瞬間」にウケれば良く、「過去にウケた嘘」なんて覚える必要がない。



BOSSの提灯記事だと思われるのが嫌なので、敢えてBOSSに苦言を呈するならば、彼らに証拠の積み上げは通じない。これまでの探偵ファイルが相手にしてきた連中と「質は同じでも、嘘つきとしての洗練度が違う」。どんなにデータを並べても彼らは揺らがない。なぜなら、今この瞬間にも彼らの頭の中で新しい「ウケる嘘」が次々と構築されていくからだ。口げんかの達人に口げんかで挑むのは愚かだ。だから、「すべてを司法に」というBOSSの態度は、弱腰に見えるが、実は正しい。



ただし、彼らが司法に裁かれて、


反省するかどうかは別の話だ。



ヤブ ヤブ


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