●更新日 06/26●
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『あなたの周りのサイコパス、あるいは人格障害①』精神科医ヤブ





精神科医として幸運なことに、診察室でサイコパスに出会ったことはない。また強烈な人格障害という人も記憶にない。しかし、一民間人としては不幸なことに、プライベートでサイコパスあるいは人格障害の人たちに何人か接点があった。いずれも散々な迷惑を被った。ここでは、あるケースを記録しつつ、彼らの特徴の一端を見ることにしてみよう。



相手は23歳の男M君、薬学部生である。彼は高校の後輩だったが、年齢的には10歳近く離れていた。知り合ったのは大規模な同窓会がきっかけだった。M君は人当たりがよく、会話は知的でスマート、周りの女性には気をつかっていた。大きなピアノコンクールで優勝し、大学は学業とピアノの功績を認められて学費が全額免除ということも会話するうちに分かった。



その時に意気投合したこともあって、私たちは時々会っては酒を飲むようになった。



ある日、私はM君との飲み会に、同僚である美人女医Sさんを連れていった。Sさんは白血病が専門の医師だ。そして、どうやらSさんがM君に一目惚れをしたらしく、飲み会からしばらくして、共通の友人から、

「Sさんが猛アプローチをした結果、二人の交際がスタートし、とんとん拍子で婚約にまで進んだ」

という話を聞いた。



しかし、実はこれは全くの事実無根であった。
Sさんに祝福の電話をすると、Sさんは驚きのあまりしばらく声が出なかった。確かにM君から誘いはあった。しかし、そんな関係にはなっていないという。
そこで、ある日の酒席でM君にそれとなく聞いてみた。M君はいたって爽やかにこう答えた。



「あぁ、あれはSさんの思い込みなんですよ。僕はそんなこと言っていません。むしろSさんの方から誘ってきて僕が断ったんです。それが恥ずかしいのかなぁ。あ、この話、ヤブさんの中で止めといてくださいね。Sさんを傷つけたくないから」



こういうやり取りをした数日後、Sさんから電話があった。

「M君、白血病になったんだって……」

Sさんは白血病の専門家なので、M君からSさんに相談のメールが来たそうだ。そこには飲んでいる薬の写真も添付してあった。

「それでね……」

Sさんは言いづらそうに付け加えた。

「写真の薬、今の血液内科では普通は使わないくらい古い薬なの。学生向けの教科書には数年前の古いことしか書いてない。もしかしたら……、M君、嘘を……」


ここまでの一連の流れで、その「雑さ」が分かるだろうか。決して雑に描いたわけではなく、M君の行動と嘘が実に雑なのだ。あれこれ調べてみると、コンクールの優勝も嘘、学業優秀も嘘、学費が無料も嘘だった。Sさんとの関係も嘘で、もちろん白血病も嘘だった。



つづく



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