●更新日 05/11●


書類上、僕の母親の肩書きが付くあなた様へ


HN:雅 年齢:21 性別:男 

あなたはどこまでわかっているのでしょう?
僕がどこまで知っているか、ということをです。
あなたは、僕のことをどう思っていたのでしょうね?
手のかかるガキ、いると何かと邪魔な一応我が子、自分を家に縛り付けるモノ。
こんなところですか?
否定してもいいですが、義祖母に僕を預けてまで男遊びに出ていた事実を知っている僕には、後付の、自分に都合のいい言い訳にしか聞こえません。
あなたが父親に暴力を振るわれていたのはしっていました。
あなたが父の夜勤時に限って出歩いていたのは、当時3〜4歳だった僕でもわかっていました。
何をしていたか、ということ自体は12歳の時に理解しました。
僕が父親の実家に引き取られ、虐待を受けながら生きていた頃。
あなたは何をしていたのでしょう?
父親が再婚し、義母と共に僕を引き取りに来て。
これから、僕は幸せになれるんだろうか、感じていた頃。
あなたは、どこにいたのでしょう?
夢見た幸せが脆くも崩れ、再び虐待を受け、僕が死に掛けていた頃。
あなたは誰といたのでしょう?

僕は、父親を憎んでいました。
虐待し、顔に一生消えない傷をつけ、食事すら満足に与えられず。
地獄。
しっくり来る言葉でしたよ。
だから逃げ出しました。
父親がアルコールに呑まれ、入院していたときに。
僕は、歩きました。
あなたに近いと思って、あなたの義両親・・・義理の祖父母のもとに。
マイナスの気温の中、義母が熟睡しているのを見計らって。
雪が降る街から、山奥の義理の祖父母の下へ、4時間かけて。
うろ覚えの記憶の中にあるあなたの運転していた車の中から見た景色を頼りに。
義理の祖父母は、驚いていました。
小学校高学年の僕が、早朝6時、幼稚園の頃を最後に通ることの無くなった道を記憶だけで歩き、辿り着いたのですから。

あなたはその日のうちに来てくれましたね。
あのときは、ああ、お母さんだ、って。
うれしかったですよ、隣にいる人を見るまでは。

あなたは2つミスを犯しました。
1つ目は、僕の記憶力を侮っていたこと。
2つ目は、あなたと一緒にいる男・・・義父。 彼と僕を、実父と別れる前に会わせてしまった事。

再び、苦痛の日々でした。 僕にとっては。
やっぱり僕、邪魔でしたよね? 
新しい旦那との間に、2人の子供もいたのですから。
ええ、否定しなくても、義父の態度がはっきり告げていてくれましたよ。
まあ、しかたないですね、義父とは1滴も血が繋がっていないのですから。
あなたもなかなかに生活し辛かった事でしょう。
すみません、ご迷惑をおかけして。

僕が家を出て3年、あなたは非常に過ごしやすい環境にいることでしょう。
ええ、だってお互いに連絡すらしていないくらいですからね。

この3年の間に、僕はもうひとつ事実を知りました。
あなたの母親・・・実の祖母と昔話をしていた時です。
卵が先か、鶏が先か・・・というのでしょうか。

僕は、あなたが実父に暴力を振るわれ、ストレスの解消などのために夜で歩いていたんだろう、と考えていました。
ところが、あなたが話していた事と、事実は違うではありませんか。
あなたは、実父の暴力が嫌で、たびたびガス抜きをしていた、と言った。
実父は、あなたが家事もせずに遊び歩いていた、と言っていた。
そして。
あなたの祖母は、あなたが僕を身篭って、実父と結婚する前からのあなたの男遊びを限界まで耐えていた実父に申し訳ない、と話していた。

ねぇ、かあさん。
僕は、あなたと誰の子ですか?
実父は、あなたの面影の残る僕にあなたを見て、憎しみが募ったのでしょう。
そう考えられるくらいには、僕も成長しました。
あなたは・・・?
実父が、最後の理性であなたを逃がした光景、今でも憶えていますよ。
あなたは、僕に目もくれず、手早く車のキーを持っていなくなりましたね。
あの時会わせてしまった、義父のもとへ行くために。

ええ、でも僕はあなたに感謝しているんですよ。
中学、高校と、卒業させていただいて。

そして

その身を持って、人生の悪いお手本を1から100まで教えてくれた反面教師のあなたに。

一緒にすごしたのは、約10年ですね。
そんな短い年月で、これほどまでに人生の反模範となることお教えてくれる親は、そういないでしょう。
親の身でありながら、一生を誓った人がいながらも女を貫き通したあなたに、心からの感謝と尊敬の意を申し上げます。

ありがとう、そして、さようなら。


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