憧れのあの人の写真を撮りたい
都内でも有数の心霊スポット『千駄ヶ谷トンネル』
先日このトンネルで、ひとつの尊い命が失われました。
亡くなったのは、ここにずっと住み着いていて、以前探偵ファイルの取材にも応じてくれたホームレスの男性。
私はこのトンネルを通る度、彼の笑顔で心を癒されていました。しかしその笑顔はもうどこにもありません。
直接話したことはありませんでしたが、見るもの全てに元気を与え続ける彼は、私の密かな憧れでした。
ただひとつ残念なことがあります。それは憧れの彼の写真が残っていないこと。
残念だ、もう一回会いたい。と事務所でつぶやく私に、誰かがこう言いました。
「あそこって心霊スポットだし、もし心霊写真が撮れたらあの人が写るんじゃないか?」
・・・気付けば私は、彼の居た場所に来ていました。
目的はひとつ。そう、霊になった彼の写真を撮ること。
顕花を済ませ、私は彼の写る心霊写真を撮るためシャッターを切りました。
・・・
・・・
・・・
何も写りません。ひと目でもいい、たとえ幽霊でもいいから会いたい。
撮影を続けますが何も写りません。
寒いです。そこに落ちていたワンカップを飲みました。温まります。
どれくらいの時間が経ったでしょうか。少し気になる写真が撮れました。背中のあたりに白い球体が見えます。
露出の関係でこのように写ったのでしょうか、それとも・・・
目立った写真はこれだけ。あとは小さい丸い光がたくさん撮れたぐらいでした。
長時間がんばったのですが、結局彼の写る心霊写真は撮れませんでした。
憧れのあの人の写真を撮りたいという私の夢は終わりました。
深夜の帰り道、町の灯が私に現実を突きつけます。彼はもういないのだと。
しかし私は忘れません。確かに彼はここにいた。
多田
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