●更新日 05/29●


女探偵ケイト・サンダース(後編)


確かにセットした筈なので何者かが抜いたのは間違いなかった。
「しかし誰が何のために?」
疑惑が私の脳裏を横切ったが、再度テープをセッティングし直した。
明らかにマリー・ラッシュに用がある者が抜いたに違いないと思い、再び姿を現すのを待つことにした。
もしも獲物のラッシュであれば警戒して機械ごと取り外す筈である。
張り込みをおこなって翌朝、アパート前に一台の不審なシボレーが停まった。
車から降り立ったのは作業着姿の者だった。



その人物は電話配電盤まで近寄ると、私が仕掛けた盗聴器からテープを引き抜いて足早にシボレーへと戻った。
目差し帽でハッキリとは顔が確認できないが体格のデータをプロファイルで確認していたのでラッシュではないのは明確だった。
張り込みの持ち場を離れてシボレーに駆け寄ったが、謎の人物はそのまま逃走をはじめた。
正体をつきとめたい衝動にかられた私はシボレーを追跡することにした。
だがプロのスタントマン顔負けの小気味良い運転テクニックでまんまと巻かれてしまった。
無論だがシッカリと逃走車のナンバプレートを記憶に留めておいたのは言うまでもない。
さっそく陸運局に出向いてシボレーのナンバーから持ち主を洗った。
すると意外にも職業が私立探偵であることが判明。
「何故に探偵が獲物の女房を調査していたのだろうか?」
それも人様が仕掛けた器具を無断で拝借して情報収集とは許し難しと思えた。
目的を追求するべく、女私立探偵ケイト・サンダースを訪ねた。



だが事務員の話しで彼女は他州へと出張中ということであった。
そのとき、動物的な鋭い私の嗅覚が過敏に反応した。
今度はサンダース探偵事務所に盗聴器を仕掛けてやったのだ。
二日に分けてテープを確認したところ、出張中の探偵ケイトと事務員の電話の会話が明瞭に録音されていた。
意外なことに探偵ケイトは逃亡犯ラッシュの居場所情報を私が仕掛けた盗聴器から入手していたのである。
「探偵が賞金首を調査するのは仕事の領域違いだ。いったい何故?」
そんな疑惑を胸に私は、仕掛けたテープの情報を基に出張中の探偵ケイトの滞在先であるフェニックス州へと飛んだ。
探偵ケイトはダウンタウンの中心部に点在するハイアット・リージェンシー・ホテルに宿泊していた。
探偵でありながら一泊US200ドル以上もするホテルを利用するとは不届き者だと思った。
私は捜査(調査)において経費削減のために極力セーブするのは必粋事項だと心掛けているからである。
よほど稼ぎの良い探偵さんと見える。
ホテルロビーにて張り込みをおこなうと探偵ケイトは現れた。



尾行開始である。
探偵ケイトはレンタカーのシボレーで走りはじめたので、私は自前の愛車ポンティアックで追跡した。
郊外のモーテル・ボニーで探偵ケイトの車は停まったので間隔をおいて私も停車させて様子を窺うことにした。
数時間してホテルの部屋に動きがあった。
獲物のラッシュが現れたのである。
そして探偵ケイトの張り込みに気がついたのか、何とラッシュが慌てて逃げ始めた。
「シット! ヘボ探偵め! 邪魔だてしやがって」
私はそう捨て台詞を吐いてラッシュを駆け足で追跡した。
幸い獲物は逃げ足が遅かったので早めに捕獲できた。



探偵ケイトに調査目的を問いつめたところ、債権関係のトラブルで逃亡犯ラッシュの居場所を依頼されて動いていたことが判った。
調査報酬よりも懸賞金の額のほうが遥かに良いのに探偵の職務を重んじたのだ。
邪魔だてされたのはシャクにさわるが、彼女のそのプライドに敬意を評した。



バウンティハンター



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