●更新日 05/22●
密会の場所 後編
調査当日、いつのもように対象者の勤務先から尾行を開始した。相変わらず同じパターンで動く対象者の行動は調査が順調に進んでいることを意味していた。浮気相手を迎えに行き、そこから1時間のドライブもいつも通りだった。
いよいよ密会場所に近づいた時、既に沼のほとりで待機する調査員に連絡を取った。
「間もなく行くぞ」
そう一言だけ伝え、電話を切った。携帯電話の一瞬の明かりさえも気づかれてしまえば命取りになる可能性があったからだ。
電話が切られて数分後、待機する調査員の耳にぬかるんだ土をゆっくりと走行するタイヤの音が聞こえてきた。エンジン音なのか自分の心臓の鼓動なのか、もはや分からない。しかしそれは確実に大きくなっていった。それと同時に沼の中央部を照らしながら近づいてくるヘッドライトが目に入った。しかし明かりを感じたのはほんの数秒のことだった。ヘドロで覆われた水面を照らしていた明かりが消え、辺りは再び暗闇に戻っていった。
この場所に待機してから30分程経過していただろうか。対象車両を目に前にし、この作戦が間違っていなかったと息を吐く。迷彩服を着用したかいがあり、暗闇と生い茂った雑木林に一体になっていた。バレる可能性はゼロに等しかった。
対象車両の幌が完全に開き終わるとエンジンが切られた。音の無くなった世界は一層辺りの暗さ感じさせた。
それから間もなくの事だった。対象車両がギシギシと音を立て始めたのだった。短時間で行為が始まったことはここに至るまでの車内で前戯を済ませていたことを想像させた。
その想像を振り払いゆっくりと身体を起こした。いくら相手が行為の真っ最中とは言え、些細な物音さえも出すことは許されなかった。
暗視カメラを構えると眠りから覚めたかのように明るい世界が広がった。そして同時に目に飛び込んできたのは、服を脱ぎ捨て行為に及ぶ対象者と浮気相手の姿だった。
よし!!心の中で絶叫した。
それから数分間続いた暗闇の中でのセックスはなんの面白みも無いものだった。しかし行為に及ぶロケーションとそれを撮影する自分の姿に極限の興奮を覚えていた。
行為が終わり、対象車両が走り去る様子を撮影する間も興奮状態がおさまることはなかった。周囲の草木に触れるのを避けるために選んだワンサイズ小さめの迷彩服は、興奮状態にあった股間を圧迫し痛みを与えていた。
その後、対象者と浮気相手がどうなったかは分からない。
ただ報告書を読み終えた後、依頼者(対象者の妻)が呟いた言葉は印象的だった。
「もう二度と私があの車に乗る事はないでしょうね・・・」
探偵エス
|