●更新日 01/21●


前科者


荒木です。

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アメリカは我が国日本とは異なり多人種の坩堝である。

当然ながらその理由によって摩擦は起き、犯罪に繋がることは日常茶飯事だ。


ディック・トフナー(38歳)もそのきっかけから犯罪逃亡者になったひとりなのだ。

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トフナーは海兵隊あがりの黒人で、徴兵時代もいたってマジメでガソリンスタンドで勤めていた。
だがある嫌味な客がトフナーの肌の色を罵倒。
憤慨した彼は客に暴行を加えて逮捕となった。

のちに保釈されたが出廷せずに逃亡。
ベイルボンズにより三千五百ドルの賞金首が公表された。


トフナーを獲物に決めた私は初動捜査を開始した。

人種差別により一転して犯罪者となってしまったのは気の毒に思うが
指名手配者であるいじょうは心を鬼にして逮捕に挑まなければならない。

悪人退治は好物だが全てではない。
善の心がまだ活かせる人物にはアフターケアも惜しまないのが心情である。


まずはトフナーの両親に聞き込みをおこなった。
すると獲物は何と家族の元に身を寄せていたのである。

幸い彼は外出中で友人たちと近隣のバーに行っているということだった。
両親が簡単に口を開いてくれた理由は、逃亡中の息子を案じたからだ。

他の追跡者とは異なる私を信用したのもある。

手荒なマネをせずにトフナーを捕らえる事を彼の両親に誓った。


そして私は家の前で張り込み態勢に入った。

深夜、時計の針が12時を回った頃に獲物は視界に現れた。

息を殺して私はトフナーに近寄った。
無論、いつでも素早く銃を抜けるように腰のガンホルスターのクリップは外してある。

そして私は獲物に向かって静かに声を掛けた。
「ディック・トフナー、お前を逮捕する」

気付いた彼は慌てふためく様子もなくその場に立っていた。
抵抗するような馬鹿なマネはしないと悟った私はボディチェックを手早く済ませると
獲物の両腕に手錠をはめた。
逃亡者にしては珍しく武器の類は所持していなかった。

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そのとき獲物の実家の窓には息子を見守る両親の姿がかすかに見えたような気がした。

護送中の車の中でもトフナーはおとなしかった。
それは彼の両親の念が息子に伝わっていたのだろうと思ってやまなかった。


その後、出所したトフナーに私は再会した。
前科者に対する世間の風辺りが悪いのはどの国でも同等だ。
そこで私はいつもの如く就職先を探すのを手伝ってあげた。
短期間で案外とスムーズに仕事が見つかった。

精肉工場の社員で、給料もまあまあ悪くなかった。
今でも彼はそこで真面目に勤務している。



ガル探偵学校



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