●更新日 08/16●


女探偵のバカンス(後編)


「那覇空港」に到着した時には夜の10時を過ぎていましたが、私の胸は躍っていました。見知らぬ土地での調査は普通は緊張する ものですが、今回は沖縄に来た事の嬉しさがそのまま良い方向に反映したかのようで調査がスムーズに進んで行きました。

そして、ターゲットと浮気相手が到着したホテルを見て、私のテンションは更に上がりました。海沿いに建てられたそのホテルはライトアップされ 、その光が海に反射し美しく輝いていました。

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その中でもターゲットがチェックインした部屋は高層階のスイートルーム、料金表から自分には一生縁の無い場所だということが分かり、思わずため息をついてしまいました。
そのスイートルームへ消えていく2人の姿を撮影することに成功し、あと抑えなければならない証拠は翌朝部屋から出て来る時の状況でした。しかし 、ホテルの構造上その証拠を撮影するのは非常に困難だということが分かり、それまで順調に進んでいた調査でしたが、浮かれてはいられない状況に 打開策を練り始めました。

なかなか良い方法が見つからず悪戦苦闘している時、先輩が私の隣のソファーに腰掛けニヤリと笑って言ったのです。

「依頼者が証拠撮影するためなら宿泊代出すってことだから同じスイートの部屋取ったぞ」

その言葉に私の顔は輝きを取り戻しました。スイートルームなんてセレブしか泊まれない部屋だと思っていました。しかし、そのチャンスが巡ってきたのです。しかも沖縄のホテルのスイートルームです。 調査以上にドキドキしてしまう自分を抑えきれず私は先輩の手を引き、催促しました。
はたから見れば彼女が彼氏に「早く行こうよ」と甘えている姿に映っていた事でしょう。

ターゲットと同じフロアに到着し、カードキーでドアを開け、一歩踏み出すとそこにはテレビでしか見た事がない光景が広がっていました。

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その部屋に入った瞬間、あらゆる物に目を奪われはしゃぎたい衝動に駆られました。しかし、隣に居る先輩の冷ややか目を想像するとなかなか動き出せませんでした。そんな私に、

「はしゃぐのは5分だけな」

と、お許しが出たのです。予想外のその発言に私は抑えていた感情を爆発させました。天蓋がかかったキングサイズのベッド、大の字になっても余裕があるバスタブ、そして窓から見える沖縄の海、その全てに感動しているうちに5分という時間はあっという間に過ぎてしまいました。

調査の打ち合わせをするには異質過ぎるそのゴージャズな空間で入念な準備をし、翌朝を迎えました。

そして・・・私達は狙い通りの証拠を撮影することに成功し、その結果を依頼者に報告すると満足したらしくその時点で調査は終了となりました。時計を見ると昼の12時を少し回ったところで、思わず自分の顔がほころぶのが分かりました。

嬉しさを隠すことが出来ずニヤニヤしたまま先輩に帰りの飛行機の時間を尋ねると、私の考えを察知したのか「何時が良いの」と逆に聞かれたので、勢いに任せ「最終で」と答えてしまいました。
せっかく沖縄に来れたのに調査だけして帰るなんて考えはこれっぽっちもありませんでした。しかも昨夜泊まったホテルには宿泊客だけのプライベートビーチがあるらしくこれを利用しない手はありません。

先輩の返答を待たずに私は走り出していました。

探偵を始めてからなかなか買うことが出来なかった2年ぶりの水着は少し恥ずかしかったけれど、それ以上に沖縄の海の青さに感動し、パラソルの下でビールを飲み続ける先輩を他所に私は出発時間ぎりぎりまではしゃぎ続けました。

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スイートルームプライベートビーチ、お金持ちと結婚しなければおそらく経験出来なかったであろうことをまさか探偵になったことで経験できるとは思ってもいませんでした。

これに味をしめてしまった私は女探偵を辞められそうにありません。



名古屋の探偵マリ



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