●更新日 08/01●


セレブの悪戯(前編)


真夜中の相談電話は30代の女性からの盗聴器発見の依頼だった。
翌日、早速依頼者宅のマンションに向かいエントランス前に到着すると、そこだけ異空間のような壮観な作りの建物に思わず息を呑んでしまった。いわゆる億ションという物件だ 。

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インターホン越しに依頼者と言葉を交わし、オートロックの扉を2度通過する。探偵泣かせの構造だな、そんなことを考えながらエレベーターホールへと向かった。エレベーター内に入るとその数字の羅列 が高級ホテルを連想させた。
部屋の前まで行くと依頼者はにっこりと微笑み、室内へと通してくれた。その強烈な香水の匂いに思わず顔をそむけたくなったが、その直後に通されたリビングルームを見て香水の匂いのことなど消し飛んでしまった。

目の前にはテレビや雑誌などでしか見た事がなかった世界が広がっていた。
この依頼者が稼いで購入したマンションなのか、それとも誰かの援助があって手に入れることが出来たのか、そんな低俗な考えが浮かんでいた。
これほど高級なマンションに住んでいれば興味本位で盗聴器を仕掛ける輩は居るかもしれない、それが率直な感想だった。

昨夜、その時間帯を全く無視するような甲高い声で彼女の話は始まった。

「盗聴発見器が反応したから調べてくれる?」

興味本位で購入した数千円の盗聴発見器を試したところ、自宅マンションのある一定の場所で盗聴波を示す反応があったという。

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しかし、肝心の盗聴器を見つけることは出来なかったため、調査を依頼することにしたのだということだった。

「本物の探偵さんと話をしてみたかったのもあるんだけどね」

電話では話さなかった本音を漏らしながら、彼女はカラフルな盗聴発見器を見せ屈託なく笑った。その幼さの残る表情と身にまとわれたブランド品、そして彼女が腰掛けている革張りのソファーが妙にアンバランスで可笑しかった。

「この辺りで反応したのよね」

窓際を指差す彼女の言葉に従い調査を開始した。調べる部屋、調べる部屋の豪華さに驚き、ため息をつきながら調査を行ったが、盗聴波らしき反応は全く認められ なかった。電池切れなどの可能性を考慮し目視や手探りでも探してみたが、結果は変わらなかった。
その結果を彼女に伝えると、安心というよりはむしろ残念そうな表情を浮かべると、

「そう」

と一言だけ呟いた。
調査機材を片付けていると彼女はティーセットを持ち、キッチンから顔を出した。

「お茶でもどう」

目の前に置かれた高級そうなカップに目をやりながら自分の1ヶ月分の給料と天秤にかけたらどうなるだろうと考えたが、悲しい結果になりそうな予感がし、それ以上は考えないことにした。

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「どうやって調べてたの?」

彼女は紅茶を一口飲んだ後、私の傍らに置かれた機材を見てそう聞いてきた。
興味本位でそのような質問をしてくる依頼者は多いため、私は片付け終わっていた機材を取り出し、再び電源を入れた。
盗聴波の探索が始まり私は説明するため依頼者にモニターを見せようとした。


その時だった。


モニターには先ほどまでとは全く違った反応が映し出されていた。



つづく



探偵コン



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