●更新日 08/25●

A君の友達(4) 〜Aの切り札〜


本当のことを言ってくれ、N! どうしてはっきり言ってくれないんだ?!
A君はN君の肩を掴んで訴えた。しかし、N君は無言で俯いている。



だめだった。完全に怯えきっている。それを見てBは勢いづいた。

おい、A。なんなんだ、てめぇは? そんなことされてないって言ってるだろうが。N本人がよ!
あなたがそうやって、脅かすからじゃないですか!
やってもいねぇことの濡れ衣をきせられりゃ、怒るのは当たり前だろうがよ! あぁ?!
うん。そりゃそうだ。
他の社員たちも口を挟む。
A君。N君が自分で嘘をついていることを認めているんだ。早く謝りなさい。
いい加減にしろよ、A! 喧嘩売ってんのかよ! なんの証拠もないのに、適当に決め付けやがって!

A君はしばらく、黙った後、ぼそりと言った。



証拠があるんですよ。
なんだ? あるわけねぇだろが。適当なことをぬかすな。
凄み続けるBの前で、A君はポケットから、機械を取り出した。




これは、“ICレコーダー”といって、十数時間の連続録音が可能な機械です。これをこの数日間、N君の体にしかけました。
Nの体にしかけた? うそつけ。このやろ。
いつもポケットの中までチェックしているからですか? こちらはそのくらいでバレるような仕掛け方はしていませんよ。
なんだとぉ……
この中には、あなたがN君に金を持ってくるように指図したり、脅して口止めをしたり、暴力を振るっている様子が記録されています。

A君がICレコーダーのボタンを押した。暴行や恫喝の音声が再生される。

(暴行)音声ファイル1
ああ!?
いや、そんなもう……
あぁ! なに!? なに!!
……あの
※殴打音
しばくぞ、こら、おまえ、ああ! 立たんかい。
……
おまえ、殺すぞ。 どこむいとんねん。
あ、はい。すいま……
おまえ、殺すぞ。おら
……
(略)


(口止め)音声ファイル2
おまえな、みんなの前で給料使われたとかいうなよ、 おい。
はい。
おまえ、まちがって店長の耳に入ってみい、おまえ、またしばかれんぞ
(←以前、Nが嘘つきにされたときのことを指す)
……

おまえ、わかってんねやろ店長のこわさが。またしばかれんぞ。そんなん入れてるっていうことがばれたら。
……
え? 思えへん?
はあ。
いらんこというなよ。
はい
自分の首しめてまうぞ。な?
はい


(N君が要求通り金を持ってこなかった時)音声ファイル3
今回痛いわ〜。わかってる? え? 残念やで、非常に……おまえ、嘘ついて……え? ええ!!
(略)
どないすんねん? この気持ちをどなしてくれんねん? え? この気持ちどないすんねんて、聞いとんねん!



他にも、痣を作ったN君を病院連れて行ったときの診断書もあります。軽症ですが、立派に傷害罪の証明になります。これにN君の供述書とS君の供述書もつけます。警察にはすでに話をして、届けがあればすぐに動いてくれるよう話もついています。
……おい。待て。
それでもまだとぼけるなら、たった今録音したあなたの音声と、証拠の音声を専門家に鑑定してもらい鑑定書をとります。
ちょっと、待てよ……

Bがうろたえながら口を挟む。しかし、A君は構わず言い放った。

僕の望みは三つです。
・N君から取り上げた全てのお金を返却すること。
・今後、一切暴行行為、恐喝行為を行わないこと。
・N君を本日をもって退職させ、後は一切接触しないこと。

ひとつでも叶えられないなら、警察に届けます。○○新聞の本社にも通報します!


Bは沈黙した。皆が重苦しく黙りこんだなか、一人の社員がぽつり言った。

「だれか。店長を呼んで来い。」


………………………………


駆けつけた店長の前で、B副店長は全て認め、店長とN君に謝罪した。そして、A君が出した条件について、

「N君にお金を返すこと」
……店長が自分の管理不行き届きをN君に詫び、B副店長に今まで取り上げたお金を返させた。
「今後一切、暴行、恐喝を行わないこと」
……B副店長はこれを約束し、A君が用意した「誓約書」に署名、捺印した。

しかし、最後の「N君を本日をもって退職させること」
この条件に異議を申し出た者がいた。
他でもない、N君本人だった。

『……ボク、Bさんがもう乱暴しないことを約束してくれるなら、この店で仕事を続けます……』


→次回に続く



探偵ファイル・九坪


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