●更新日 06/15●

働く人の憂鬱 〜海上保安官の憂鬱〜


様々な業界で働く人がいます。ですが、その業界に身を置く者にしか解らない裏話も沢山あります。興味があっても、「実情はどうなんだろう?」という不安を持つ方々の質問に私もして来ました。今回は、海の安全を守る海上保安官さんにお話をお伺いして来ました。



海上保安庁はどんな仕事をするのですか?
海難救助や海上における治安維持、海上災害の防止などのほか、航路標識の建設管理、海図などの水路図誌の作成を行なってます。陸上で例えるなら「警察」「消防(火災消火&防災&救急)」「信号建設&管制」「測量&地図作成」全てを賄う官庁になります。
また陸上の職員だけではなく巡視船の乗組員でも、時には陸上での調査や張り込みなどもします。まあ一言で言えば、海の『何でも屋さん』ですね。

治安維持とはどうやってやっているのですか?
密航密輸の水際阻止、密漁取締り、その他法令の取締まりをしています。巡視船艇による巡回監視や、陸上における岸壁巡回、港湾関係者や漁業者などからの情報収集なども行っています。

海上保安官になろうと思ったきっかけは?
海が好きで、海関係の仕事に就きたかったからです。どうせ海関係の仕事に就くなら、人の役に立つ事をやりたいと思いました。

海上保安官にはどうすればなれるのですか?
海上保安学校(一般職員)か、海上保安大学校(幹部職員)に入ります。いずれも全寮制で、入学後は船に関する知識や、治安維持に必要な法律などを勉強します。実際に巡視船を使用しての乗船実習も行なわれます。
また、入学後は国家公務員として採用されますので、勉強しながら給料が支給されます。
勉強内容は、主として海技免状(大型船舶の免許証みたいなもの)や小型船舶操縦者免許状、無線従事者資格など、現場で必要とされる国家資格取得のための勉強。刑法や刑事訴訟法、などの法律を習います。
変わったところでは逮捕術や柔剣道、武器操法の授業も。大学校では、これらの内容に加えて、一般大学と同じ内容を習うらしい。また学校と比較して乗船実習の期間も長く、習う法律の内容も、かなり掘り下げた教え方をしているらしい。その他に、幹部教育とかもやってるのかな?

巡視船と普通の船とは違うのですか?
巡視船も色々タイプがあるのですが、洋上で救難作業を必要とするため、舷の高さ(海面から甲板までの高さ)が一般の船舶と比較して低く作られています。舷の高さが高いと、漂流者の救助などが困難になるからです。巡視船の舷の低さゆえ、航行中にトビウオが甲板上に飛び込んでくることもあります。甲板上に転がったトビウオは、その日の食卓に並んだりします。勝手に飛び込んで来て、あくまで釣ってはいないので(笑)
設備として特殊なものと言えば、やはり武器でしょうね。日本の警察機関で35mm連装機関砲という大型の固定火器を装備しているのは、海上保安庁だけでしょうね。自衛隊内にも警務隊という独自の捜査機関が編成されていますが、大型の火器は無いでしょう。

この仕事の魅力はなんですか?
海難救助などの業務を完了した後の達成感。海という特殊な状況下で任務を遂行するので、充実感もあります。
またふと見る夕日や星空が凄くきれいで、とくに水平線まで星が広がる景色は素晴らしいです。これが今から海難救助に向かうのでなければもっと良いのですが(汗)

内情は?
定年まで転勤の繰り返しです。地元との癒着を防ぐために2〜4年ごとに異動になります。その為なのか、看護士さんか保育士さんが奥さんの人が多いです。男だらけの職場ですので、出会いと言うものが無いため、独身の人は合コンもよくします。一番引越しが多いのに、異動手当ては非常に少なく毎回赤字になります。宿舎費が安いかわりの負担だと考えるようにしています。また狭い船内で長期間生活を共にするので、船酔い等慣れるまでに時間を要します。

困る事はありますか?
いまだに海上自衛隊と間違えられること。自分の職業を説明するのに、海上保安庁と自衛隊の違いから説明しなければならない。また、海上犯罪の取り締まりもやるので、稀に逆恨みされることがあります。儲けの大きい密漁を潰せば、密漁者は激怒しますから… 私は夜道を歩いていたら後ろを取られて、脅すような事を言われました。

写真
▲火災にあった漁船、まだ煙が上がる中船員を救助。

最近漫画やドラマや映画などで海上保安庁が取り上げられていますが、どう感じていますか?
海上保安庁が有名になるのは良いことかもしれませんが、複雑な心境です。映画を見たイメージだけで見られるのは辛いですね。『海上保安庁の職員は皆「潜水士」なんでしょ?』とか言われそう。

実は秘密だって話はありますか?
本当は禁止されているのですが、出動が重なったりして長期間基地に入港できないような行動になると、食料調達のために魚釣りをすることがあります。
何故禁止なのかと言うと、例えば警察官がパトカーから降りて弁当を買うだけで「公用車を私用で使っている!」騒がれる今の世の中。海のパトロールを行なう巡視船から、娯楽などの個人的目的で竿を出すことが許される筈がありません。

面白いエピソードはありますか?
犯罪行為をした外国人船員の取り調べしている時ですが、外国人船員は語学が達者な人が多いため、日本語しか喋れない私は取調べ中であるにもかかわらず、逆に(日本語で)「この国際社会、最低でも2ヶ国語は喋らないと!」と、説教されたりしたことがあります。 ……お恥ずかしい……
また、船長に内緒でイカ釣りをして、家族への土産にと、釣れたイカをこっそり隠しておいた人が居たのですが、入港した時にその事がばれて、イカを没収されたあげく上陸禁止というペナルティーを受けた人が居ました。入港した巡視船の真っ白い船体には、べっとりとイカ墨がついてました。教訓・・・証拠隠滅も忘れずに・・・。

給料はどれくらい貰っていますか?
高卒で海上保安学校に入り、10年で大体23万円前後。大型巡視艇以上の船に乗ると、特殊な船上生活を考慮して2割増の28万円前後が支給。いずれも手取り。海上保安大学出身者のいわゆるキャリアは、やっぱり高い額を貰っているけど、給与明細見せてくれないので、良くわかりませんね。

海上保安官になりたい人に一言
理想と現実は違います。海ですからもちろん溺死者にも出会うことになります。海のおまわりさんと表現するくらいですから。配属される管区によっては、命の危険に晒される事も少なくないので、覚悟を決められた方が宜しいかと思います。

写真
▲衝突事故に巻き込まれた船へ乗り移って浸水区画からの排水作業




いかがでしたか?なかなか苦労が耐えない仕事のようです。皆さんが安心して海水浴やマリンスポーツができるのも海上保安官が日夜頑張っているからではないでしょうか?最近では船舶免許も取りやすくなり、未熟なまま無茶な行いをしてのヨットや水上バイクでの事故が増えています。車と一緒です。お酒を飲んではいけません。救命胴衣をきちんと着用する。定員を守る。当たり前の事ですがきちんと守りましょう。



海上保安庁HPはこちら



探偵ファイル


探偵ファイルのトップへ戻る

インデックス