内気な彼の性格がわざわいしたのか、彼はふたたび路上で拉致されてしまう。歯止めがきかなくなった少年たちは、彼を苅田港に蹴り落とそうとした。岸壁のフェンスにしがみつき、「助けてくれ」と泣き叫ぶ彼の手にバールを打ち下ろす。顔は変形し、フェンスをつかんだ手からいく筋もの血が流れる。やがて彼は、ぐったりして声も出さなくなったが、打たれても打たれても手だけは離さなかった。海に落ちたら死んでしまう。と思ったのだろう。
そんな生への最後の力をふりしぼる凄惨な姿に、少年たちの心も動いた。
「もう、いいやろ。かわいそうやから、やめよう」
だが、主犯の少年の一言で運命が決まった。
「俺たちは殺人未遂の共犯やけんな。捕まらんように、殺してしまうぞ」
すぐさま彼は車のトランクに押し込まれ、さんざん殴られた。少年たちは、手が痛くなるとクランクやナット回しを取り出し、それで殴り続けた。