●更新日 11/21●


100キロ婆は山姥の末裔だ


90年代から2000年代始めにかけて、現代妖怪が次々と登場してきた。
現代妖怪の大物は、だいたいこのあたりにそろったといっていいだろう。

その中で、種類の多さとそのバリエーションの豊富さ、面白さが目立ったのがスピード系妖怪だ。
100キロ婆に代表される、街や高速道路を疾走する老人妖怪たちの元気さは、人間世界の「老人力」の影響か。
渋谷では女子高生に100m競争を挑む「100m婆(徒競走婆)」なども現れたという。
この妖婆は、厚底ブーツの女の子や、ぶかぶかズボンの男の子に徒競走を挑み、彼らがファッションのハンデイにより負けると、頭からかぶりつくと言われている。
厚底ブーツやぶかぶかズボンというだらしないファッションに対するアンチテーゼともいえようか。
また、2003年頃には「光速婆」という妖怪さえ出現した。
ここまでくると、ほとんどSFのヒーロー並の設定である。
いくら妖怪が闇の存在でも、光のスピードを追い抜く事はないじゃないかと思うのだが(笑)。
また、「ジャンピング婆」「ホッピング婆」などが名古屋を中心に噂が広まった。
名古屋出身のタレント兵頭ゆきが、今噂になっているとテレビでジャンピング婆のことを話していたことがある。
(他の出演者たちは、そのネーミングに爆笑していたが)。
この婆たちは家の屋根や高速道路の路肩をジャンプしながら追いかけてくるらしい。


イラスト:SEL

更に「Uターン爺」なども、道路で追い抜き突如Uターンをかましてくる危険な野郎である。
これは、初めて名前にアルファベットが使用された日本妖怪ではないだろうか?

筆者の知り合い、妖怪絵師SEL女史によると、和歌山県のあたごトンネルに妖怪「あたご」という爺さんが出没するという。
自転車で車を追いかけ、石をなげてくるらしい。
そのスピードから考えても、生きている人間ではないとされている。
これら、高速で移動する婆妖怪たちは、民話や昔話に見られる山姥の特徴を受け継いでいる。
「三枚のお札」などの民話にあるように、逃げる小僧たちを山姥は高速で追いかける。
この山姥たちが、都市に住み着いたのが、現代の100キロ婆たちスピード系妖怪であることは間違いない。

民俗学では、山姥の中に荒々しい母性を見てきた。
だが、いまや山は切り開かれ、峠やトンネルに排気ガスをまき散らす有害な車が爆走する時代となった。
かつて、山中に踏み込んできた小僧たちを脅かした山姥の狂気の母性は、100キロ婆として事故の犠牲者の念を取り込む形で復活したのである。



山口敏太郎



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