●更新日 06/11●

追いかける女


トンネルでの霊体験の話は、誰でも1度は耳にしたことがあると思います。
実際に、昔から霊感が強かった私も例外ではありません。

壁に消える男。
入り口に座り込む男の子。

今回は、これまで体験したトンネルでの霊体験の中で、最も印象深かった話をしたいと思います。

あれは1999年の夏の夜の出来事。
仕事の為に隣県に赴いていた私は滞りなく作業を終え、帰路についていました。
私の住む場所と隣県を結ぶ道は、国道の1本だけ。
その国道には峠の県境に1本のトンネルがあり、私は常々気持ちが悪いと思っていましたがそれはいつもの事だったので、トンネル特有の圧迫感がそう感じさせるのだろうと思い込むようにしていました。

午後8時頃。それは何の前触れもなくやってきました。
当時、私は左ハンドルのオープンカーに乗っていたのですが、古い型の外車で、天井部分の幌は雨漏りをしていたので、「そろそろ交換の時期かな?」等と思いながら車を走らせていました。
峠を走る私の車の前には1台のトラック、後ろには数台の普通車。
荷物を積んだトラックは峠を低速走行で登っており、一刻も早く苦手としていたトンネルを抜けてしまいたかった私はイライラしながらも後方について走っていました。
車列は変わる事なく山頂へ到着し、私の目前にオレンジ色の大きな口を開いたトンネルが姿を現しました。

写真



長さが約900mあるそこに入った瞬間、異変は起きたのです。

ドンッ

そんな音と共に車が不可解な揺れを起こしたのを私は感じました。
ぶつかられたり何かを踏んだ衝撃とは違う、上から下へ押されるような揺れを。
バックミラーで後方を確認しましたが後ろの車が障害物を避ける様子もなく、まして車間が狭い訳でもありませんでした。
おかしいと思ったその時でした。

自分の車の後方部分から音が聞こえてきたのです。『ギシッ、ギシッ』と。

途端、私の全身を悪寒が走りました。本能でこれはヤバイと思ったのですが、前をトラックが走行している事と、対向車の存在で逃げる事も出来ず。
その間も音は着実に近付いてきました。
音が頭の上まできた時、危険を承知で視線を上部へと向けました。すると、布製の幌はまるで上に何かを載せているようにへこんでいたのです。

さすがに霊の存在には慣れているとは言え、これは初めての体験だったのでどうしようかと考えていた時。

ギシッ

そんな音と同時に上から誰かが覗き込んだのです。








白い服を着た髪の長い女性でした。無表情でじっと私を見つめてきたのです。
運転席側で、まるで私の視界を塞いで事故を促すようなその行為に私は彼女を睨みつけながら大声で怒鳴りました。

「邪魔だ!消えろ!」


初めて霊を見た人であれば驚きと恐怖で事故を起こしてしまうその状況なのですが、私は過去の経験から、強く心からの拒絶の言葉を吐き出したのです。

時間にすれば僅かだったと思いますが、私にとっては長い睨み合いでした。
暫く彼女は私を見つめ続けていたのですが、トンネルを抜けたと同時に徐々に消えて行きました。
数日後、幼馴染みにその話をすると、彼は次のような話を聞かせてくれました。

 〜 〜 〜

ある夏の真夜中、海の帰りにそのトンネルを通った時の事です。
友人Aの運転する車がトンネルに入った時、それまで談笑していたAが突然無口になり、車のスピードを上げ始めたそうです。
危ないと注意した言葉を無視してスピードを上げ続けるAの態度に異変を感じ取った彼は、運転するAを見ました。
Aは怯えた表情で前を凝視したまま、ハンドルをきつく握り締めていたのです。
このまま運転させるのは危険だと判断した彼は、止まれと怒鳴ったのですが、Aは声を震わせながらたった一言だけ呟きました。

「・・・・・・停まれない・・・・・・後ろ・・・・・・」

後ろと言われ振り返った彼は、自分のその目を疑ったのです。
白い服を着た、長い髪の女性がAの車を追いかけていたのです。もう少し手を伸ばしたら届く所まで。
2人は叫びながらトンネルを抜け、峠のふもとまで一気に走り抜けたそうです。
車の往来が多くなり始めた場所まで夢中で車を運転してきたAは、路側帯へ車を停めました。そこで彼はAに詳しく話を聞いたのです。
トンネルに入った時、Aがバックミラーをふと見ると、何かの影が見えたそうです。それがどんどん近付いてきて、人間の姿だと認識できた瞬間に『逃げなければ』と直感してスピードを上げたそうです。
振り切ったと確信していた事と車の往来があった事で安心した彼は、車を点検するために1度車から降り、1周回って大丈夫だと確認して再び車に乗り込みました。
彼が車の扉を閉めようとドアに手をかけた時。
扉越しに白い服を着た長い髪の女性。正しくトンネルで自分たちの車を追いかけてきた女性が立っており、ニヤリと笑って彼に向かって手を伸ばしたのです。




写真



彼は慌てて扉を閉め、Aは半ば錯乱状態で車を急発進させてその場から逃げ出したのでした。

 〜 〜 〜

私はその話を聞いて驚きました。
『白い服を着た髪の長い女性』『走行している後ろから走って追いかける』(私の場合は全く気付かずに車に乗られてしまいましたが)
そして『同じトンネル』。

隣県側の峠のふもとに住む同僚の話では、霊感の強い友人と車でその峠を走った時、トンネル手前の路側帯に女性が立って走り去る車をじっと見ていると言ったそうです。それだけではなく、車がその路側帯の奥へ消えてゆくのも見えたらしいです。
路側帯の向こうは鬱蒼とした山。勿論車が通れるはずもなく……。

正直、もうそこを遅い時間に通りたくないと思っていましたが、何の因果か私は隣県へ転勤となり、毎日そのトンネルを通っています。
あれ以来その女性とは遭遇していませんが、足を掴まれたり急に背中が痛くなったりという症状が起きるようになりました。
そしてトンネル付近の事故は絶えません。縁石もない場所で車が完全に横転していたり、何もない直線で壁に刺さっていたり。

もしかしたらあの女性が……。





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