●更新日 05/25●

動物たちの怨念 第3夜


怨念……と言うと、人の魂や怨霊を思い浮かべる方が多いだろう。
しかし、霊は人間だけに存在する訳ではない。
虐げられた動物たちの呻きや叫び−−−それもまた”怨念”として存在するのだ。
私が調査などで聞いた話、自らが経験した出来事などを話したいと思う。

見えざる猫のいざない

これは私が学生寮生活をしていた頃の話である。

ある日の事だった。就寝時間となり、この日も普段通り床に着いた。
部活と勉強の疲れによって直ぐに眠りに入った。
数時間経った頃であった。
「……?」
遠くから猫の鳴き声が聞こえて来た。微かだが間違いなく猫の鳴き声が聞こえたのだ。
その時は、
「ん〜、発情期なのかな?」
とさして気にせずに再び眠りに着いた。
朝になり、学校へ行って1日が終わり、また就寝時間となった。
そして昨日と同じ頃合に、また猫の鳴き声が聞こえて来た。
「……ん〜、うるさいな〜」
2日連続だったので、少々ウンザリしたが、この日もそのまま我慢して眠った。
しかし、3日目の夜もまた泣き声が聞こえて来たのである。
これには心底嫌気がさした。毎晩の鳴き声に熟睡出来ずに、かなりストレスが溜まって来ていたのである。
次の朝、着替えながら同室の者に何気にこの事を話してみた。
「最近さ〜、毎晩、猫の鳴き声がうるさいよな〜」
「は? 猫の鳴き声? そんなもん聞こえないよ。寧ろ、お前がなんかうなされてる方がうるさいよ」
なんと、あれだけしっかり聞こえていた鳴き声が同室には聞こえないと言うのだ。
「それはお前の耳が悪いからだよ」
と冗談を言って、登校した。
……だが、学校で同じクラスの者にその事を話しても、誰一人として鳴き声が聞こえたという者は居なかった……。
「これだけ訊いて、誰も居ないと言うのなら、自分の気のせいなのでは無いか?」
そう思うようにして、部活へと出た。
しかし、その4日目の晩も、また猫の鳴き声は聞こえたのだ。
誰にも聞こえない猫の鳴き声が自分だけに聞こえる……。
この異常性に私も、何かある事は感じていた。

「お前、すっげ〜クマが出来てるぞ! 夜更かししてゲームでもやっているのか?」
食堂で同じクラスの者と食事をしている時にそう訊かれた。
勿論、ゲームなどしていない。全て、鳴き声が気になって眠れ無い事による睡眠不足が原因だ。
”どうせ言っても無駄だろう”
そう解っていても、何となく口にしていた。
「毎晩、猫の鳴き声がうるさいんだよ」

ガタン!!

私が言い終わると同時くらいに、私の後ろの椅子が勢いよく倒れた。
「君も聞こえるの!?」
そう言って私に詰め寄って来たのは、見覚えの無い奴だった。詰襟から同学年だと言う事は解ったが、他のクラスの上に、他の部活の者だったのだろう。話した事など1回も無い知らない奴だった。
「お前も聞こえるのか?」
「……(こくん)」
話してみて解った。こいつも私と同じように、猫の鳴き声で悩まされていたというのだ。しかも、他の奴には聞こえないという所まで私と同じだった。
”気のせいじゃなかった””自分はまともだった””他にも同じ奴が居た”と言う安堵感と共に、恐怖感が増してきた。

この猫の鳴き声はいったいなんなんだ。

私ともう1人(Aとしよう)は原因を探るべく、他に同じように聞こえる奴はいないか、同学年の奴に訊いて回った。
こんな面倒な事はしたくなかったが、このままだとこっちがおかしくなりそうだったからだ。
そして、見付かった
全員に訊いて廻った訳ではなかったが、同学年300人の中で、私を含んでたった4人だけが猫の鳴き声を聞いていたのだ。
うそ臭いが本当の事である。
その中には学校でも、”霊感のある奴”として有名なBが居た。Bとは話た事が無かったが、前から、”霊が見える奴”と言う噂は聞いていた(逆に”頭がおかしい変人”とも聞いていたが)。
そうすると、やっぱりあの鳴き声は……
「うん。多分、寮の近くで猫が死んだんだろうね。成仏出来ずに誰かを呼んでいるんだよ」
にべもなくBはそう言った。
「”誰か”って誰?」
とAが訊くと、
「僕たちはこうやって集まった訳だよね? つまり、”聞こえる奴”って事かな?」
また慣れた感じでBが言った。
とすると、私達は猫に呼ばれた者達と言う事になる……。
次の日が土曜と言う事で、みんな(と言っても4人だが)で、猫を探してやろうと言う事になった。

週休2日で、土曜も休みだったので、朝から動く事が出来た。
寮担任に、「寮の掃除をしたい」と出任せを言って、軍手や鎌を借りた。そして手分けして、猫(の死体?)を探したのだ。
「本当にこんな事意味があるのか?」
何だか、Bに騙されたような気がするが、毎晩聞こえる鳴き声に悩んでいたのは確かだったので、黙って探した。
しかし、これが本当だったら、それこそ怪談である。
朝から夕方まで探したが、寮の外にはそんなもの無かった。
諦めて帰ろうとした時だった。
「あ。寮の周りだけじゃなくて、もっと外かも」
そうBに言われて、寮の敷地から出て、公道の回りを探していると……

猫の死体は本当にあった。

それは、側溝に落ちて、傍からは見付け難い位置となっていた。
数日前に轢かれたのだろう、身体をぐちゃぐちゃにされ、その上、既に蛆が沸いていた。腐臭も凄い。
「本当にあった……」
あまりの事に私が絶句していると、Bがその死体を拾い上げた。
「せめて地面に埋めてあげないと」
そう言って、他の3人が触れずにいたのにBはあっさりと行ってしまった。
シャベルで近くの土手に穴を開け、そこに埋めてあげた。
「よく、”動物が死んでいても可哀想と思っちゃいけない、憑いてくるから”って言うよね? それはまあ、本当の事なんだけど、あんまり酷い時には、ね。こうやって猫だって人にすがる時があるんだよ」
そう言いながらBは立ち上がった。

その日は、”猫に憑かれたらどうしよう?”という思いで、眠れなかったが、それ以降、猫の鳴き声が聞こえるような事は無くなった……。
こうして私の不思議な体験は終った。Bがいま何をしているかは解らないが、これは事実である。

小動物と言えど、何かを訴えたい時はある。
そんな時、あなたしか聞こえなかったら、

ど う し ま す か ?



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