●更新日 03/16●


謝礼、接待...博士号授与はグレーゾーンだらけ


横浜市立大学で博士号授与の謝礼を払うという慣習があったことが発覚し、注目を集めている。博士号授与の実態とは、果たしてどのようなものだろうか。

2008年3月12日の産経新聞によると、横浜市立大学医学部長を務める人物の研究室では、医学博士取得の謝礼として、大学院生から一人当たり30万円程度を受け取っていたという。これは長年の慣例になっていたようで、現在大学が調査を進めている模様だ。当該の人物とは、嶋田紘教授。プロフィールによると、嶋田教授は1969年に同大を卒業後、他大学での勤務を経て1992年に医学部第2外科教授に着任した。2005年に医学部長に着任し、現在に至っている。

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3月13日の朝日新聞によると、嶋田教授は研究報告会、その懇親会、記念品等を使用目的として、受け取った金銭を積み立てていたという。収賄罪に問われた名古屋市立大学の事件が発覚した昨年末以降、嶋田教授は謝礼の返還を進めていたそうだ。その際に「無かったことにしてくれ」、「家族にも口外しないように」と口止めしていた、との証言も出てきている。市大教職員の場合、このような形で金品を受け取ることは地方公務員法違反の可能性があるとのことだ。

博士号授与に関連する問題行為には、他にどのようなものがあるのだろうか。探偵ファイルでは、某大学の教員に話を聞いてみた。

――謝礼の受け渡しは、一般に行なわれているのでしょうか。
私の場合は人文社会系なので、医学部とは実態はある程度異なるかもしれません。ですが、そういうものはそれなりにあると聞いています。謝礼といっても現金とは限らず、例えばフルーツや高級菓子といった比較的少額の場合もあります。問題は、それが習慣になっていると拒否しがたいということです。特に、論文の最終審査に進む前に、中間審査が終了した時点で謝礼を贈る習慣がある場合などは、学生にとってそれを拒否するというのは相当な勇気が要ると思います。

――謝礼以外には、どんなものがありますか。
いわゆる「接待」ですね。これは、学生の親が子供の指導教授を食事に招いたりするというものです。普通なら社会人である年齢なのに、と思うでしょう。ですが、子供を大学院にまで行かせる親というのは金銭的にも裕福な場合が多いようで、学費ばかりか生活費まで全部出してあげるなど、子供をかなり甘やかしていることも珍しくありません。それで、親が自主的にレストラン等を予約して教授を招く、などということがあるみたいですね。

――博士号授与までの過程では、どんな問題がありますか。
教員の人数が少ない地方の小規模な大学に多い話ですが、学生の研究内容にぴったり合致する専門の教員がいないと、指導教授も半ば素人の立場で論文を審査します。そうなると、当然審査も甘くなりますから、簡単に博士号を取れてしまいます。厳しい審査で何年間も博士を取れない学生がいる一方で、同じ大学内でこういうことが起きるというのは不公平ですよね。

――それについて、大学側は問題視しないのですか。
経営状態が悪くて教員数を確保しにくい大学では特に、ほぼ黙認状態です。最終審査通過後に、教授会で正式に承認されるまでの段階で疑義が出ることも、時にはあります。ですが、そういう場合もその学生の専門に近い教員が他にいないと、結局は指導教授のゴリ押しで通ってしまいます。教授が定年になる年度に、そのゼミから博士号の取得者が一気に何人も出た、などという話もよく聞きます。その背景には、大抵こういうゴリ押しや審査基準の引き下げが考えられます。専任教員が定年退職すると、後任は採用しないで非常勤講師を当てることで、ますます人材不足になって、このような傾向に拍車がかかるという悪循環もあります。


前出の嶋田教授は大学HPの「医学部長からのメッセージ」で、教育方針の一部として「豊かな人間性と倫理観」を挙げている。日本の将来を担うであろう研究者の育成に責任のある立場にあるはずの教授の方々自身の倫理観を、まずは見直す必要があるのではないだろうか。



高橋



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