タミフル服用問題、マスコミが書かない論点とは
インフルエンザの治療薬「タミフル」に関する柳沢伯夫厚生労働相の発言で、マスコミが全くと言っていいほど言及していない重要な論点があると言います。
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このような姿勢については、新聞各紙にも批判的な見解が掲載されています。その大半は、「因果関係がはっきりしてからでは遅すぎる」というもの。一例として読売新聞では、2月27日の記事で「薬害タミフル脳症被害者の会」によるコメントを掲載しました。しかし、このような観点だけでは見落とされてしまう問題があるといいます。
そのことを指摘するのは、ある有名大学に在籍する博士です。今回は、その博士にインタビューを行いました。
Q: 今回の柳沢氏の発言は、一言で言うと何が問題なのですか?
A: 厚生労働相として、リスク管理の基本を理解していないのではないか、ということです。
Q: それは、つまり?
A: 社会学の研究者の間でも近年、リスク管理の問題が注目されています。リスク管理のキーワードに、「予防原則」というものがあるんですね。もし何も対策を講じなかったら大変危険な状態になるかもしれないという予測がなされる場合に、たとえ因果関係が完全には解明されていなくても、発生しうるリスクをできる限り防ぐよう努める、という原則です。地球温暖化問題は、その例ですね。タミフルの問題についても、この原則が適用されるべきではないかと考えます。
Q: 今のご説明では、「因果関係がはっきりしてからでは遅すぎる」という指摘と同様では?
A: いえ、問題はその先なんですよ。何事も基本的にリスクがゼロであるということは無いはずですが、ある事柄に関して「それは危険ではない」と証明することは容易ではないでしょう。つまり、どの程度までのリスクの低さを証明すれば安全と言えるのか、という話になります。ここには、価値判断が必ず入ってきます。だから専門家の討議による合意の形成が必要になるわけですが、タミフルの問題では、この点についての明確な合意さえ成立していないんですね。
Q: 要するに、今のままでは本当は安全宣言さえ出せないということですか?
A: その通りです。「タミフルのリスクをどの程度まで許容し、安全と見なすか」という合意が得られなければ、たとえ服用と転落死の因果関係の有無が究明されても、その成果を政策に組み込めないということです。因果関係を確認できた場合には、どの程度までタミフルの使用を認めるのでしょうか。逆にタミフルと転落死の因果関係が無いと判明したとしても、タミフル自体にリスクが無いなどとは言えないわけですね。タミフルによる過去の死亡例とされるものを見ても、転落死はその一部に過ぎません。これらの点を理解しないと、議論が混乱してしまいます。
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今回のインタビューを行い、柳沢氏の発言はリスク管理の発想からは程遠いと感じられる方も多いでしょう。
国民の生命に関わる重要問題であるだけに、タミフルを管理する厚生労働省とその関係者の責任は決して軽いものではありません。
健保不正使用問題もそうですが、国民が安心して医療を受けられる環境の整備が、逸早く実現されることを望みます。
山木
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