●更新日 07/19●


幸せのつかみ方(中編)


稲刈りの時期までもう少しというところだろうか、辺りを見渡すとそんな風景が広がっていた。

「見てきましょうか?」

後輩は沈黙の時間に痺れを切らしたのかそう呟いた。ハイエースが停車してから10分も経過していなかった。私が頷くと、後輩は物音一つ立てずに調査車輌から降り、不恰好なほふく前進でハイエースへと近付いて行った。

写真

ハイエースまであと20メートル程の距離になった時、ゆっくりと進んでいた後輩の動きがピタリと停止したた。五感を研ぎ澄まし様子を窺っている ことが想像出来た。

「車内でやってますね」

調査車輌に戻った後輩は、洋服に付いた土を払った後、含み笑いを浮かべながら言った。若干声が漏れていたことと車輌が上下していたことから推測できたようだった。
しかし、それ以上は近づくことは調査発覚の危険性が伴うため出来なかった。停車時間をチェックし、2人がハイエースから降車しないことを映像に収めることしか出来ず、その日の調査は終了した。

調査の帰り、依頼者へ電話をかけ報告をすると、

「そうでしたか・・・」

と、か細い声で答えた依頼者は後に続ける言葉が見当たらないようにしばらく黙っていた。夫が浮気しているのではという疑惑を思い過ごしで終わらせたかった依頼者としては当然の反応だった。しかも有効な証拠を抑えられなかったことが落胆する一因になっていたのだろう。
電話を切った後、依頼者の電話口の向こう側から流れていたバラエティー番組の笑い声がやけに耳に残っていた。

写真

対象者の行動がある程度予測出来れば対応策はあったが、現状の依頼者からの情報では全く足りなかった。二回目の調査をするしかない、それが現状の対応策だった。

そして数日後、二回目の調査が行われた。

「予算的にこれ以上はかけられません。どういう結果でも今日で最後にします」

そう言った依頼者の声は前回結果報告をした時からは想像出来ないほど、はっきりとした口調だった。

二回目の調査でも対象者は前回と同じ女性と仕事帰りに会い、ハイエースを走らせた。
しかし、前回とは行き先が違った。出勤コースをそのまま戻って行き、自宅へと近付いていく。そして、対象者の自宅から5分もかからないショッピングモールの立体駐車場に入っていき、屋上の人気のない場所へと駐車させた。

写真

「随分大胆なことしますね。まさかここでやるんですかね」

カメラを構えていた後輩がそう言った時、運転席から対象者が降車した。そして、そのまま店内へと向かって歩いて行った。女性が降りてくる気配はなく、後輩にそのままハイエースの監視を続けさせるよう指示し、

「二対に動きがあったら」

そう言って携帯電話を耳に当てる仕草をし、対象者を追いかけた。



つづく



探偵コフジ



◇上記のタグを自分のサイトに張ってリンクしよう!


探偵ファイルのトップへ戻る

前の記事
今月のインデックス
次の記事