●更新日 07/04●


相棒


探偵には対応力が必要である。
瞬時の判断とアドリブが要される状況は数多くある。

探偵Tと探偵Fはドラマ「相棒」の2人のように名コンビと言われる2人だった。

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それはある浮気調査での出来事だった。
対象者は著名人、浮気相手である第二対象者も著名人というトップシークレットの案件だった。

TとFは対象者の強度の警戒行動に臆することなく尾行を続け、宿泊先のホテルを突き止めた。
対象者が宿泊したホテルは超高級と言われるホテルの一つであり、監視カメラなどのセキュリティーシステムが2人を容赦なく追い続けていた。

「時間の問題だ」

そう感じたTはFと共にフロントに向かった。

「本日宿泊したいんですが」

Fは何も聞かされていなかったが、その一言でTの考えを理解した。セキュリティーの厳しいホテル内を自由に動き回るため、自分たちも宿泊客となる。長年コンビを組んでいたこともあり 、その考えを理解するのにそれほど時間はかからなかった。

「3022号室は空いていますか」

Tはフロントの様子を窺いながら更に続けた。
そこは対象者がチェックインした部屋の出入りを撮影出来る最も良い位置の部屋だった。
その一言にフロントは宿泊状況を確認する手を止め、怪訝な様子で今の言葉をもう一度催促するようにTを見つめた。
その反応にTは既に用意していたと思われる言葉を発した。

「私は彼のマネジャーをやっております」

Tの思惑を察する事が出来なかったFはとりあえずフロントに微笑み、軽く頭を下げた。フロントはFに同調するように頭を下げると、Tは満足したように更に言葉を続けた。

「彼は六星占術の師範なのですが、今日はその部屋からのの流れが良いらしいのです」

その言葉を聞いた直後、フロントの眉間に皺が寄ったことをFは見逃さなかった。無理はない、自分はどう見ても20代の男、六星占術の師範と聞けば50代以上の落ち着いた女性をイメージするだろう。

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しかしTは雄弁に話を始めた。
その話を要約すると、明日上客からの相談があり、その時間までは良い気を保っていたいので指定した部屋に宿泊したいという内容だった。
Fに六星占術の知識は無い、上客からの相談にわざわざ出向くことがあるのか?良い気が流れている部屋などあるのか?そもそも六星占術に師範というものが存在するのかすら疑問になっていた。 しかし、その話の本質は考えないことにし、Fは出来る限りの穏やかな表情でフロントに微笑んだ。

訝しげな表情を浮かべながらもフロントが部屋の空き状況を確認すると、指定した部屋は空いているようだった。Fは安堵した、どんな方法にせよ その部屋に宿泊出来れば調査は上手くいく、そう確信していた。

「それでは宿泊される方のお名前をお伺いして宜しいでしょうか?」フロントがTに聞く。Tはその言葉に満足したようにFの顔を一度見た。


「タカハシタカシです」


Tが発したその名前を聞いて、Fは思わず吹き出しそうになった。それが自分の名前とかけ離れていたからというわけではない。そのなんとも言えない響きとTの躊躇ない態度が可笑しかった。

「ではご宿泊をされるタカハシ様にご記入いただいて宜しいでしょうか?」

Fは必死に笑いを堪えながら、宿泊用紙に記入を始めた。
しかし、氏名欄に「高橋」と記入した直後、Fの手は止まった。

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「タカシ・・・」

「どうやって書くんだ・・・」


普段であれば「タカシ」という漢字がいくらでも浮かんできたはずだった。しかし、その時に限って一文字すら頭に浮かんではこなかった。

仕方ない平仮名にしよう、そう思い書き出そうとしたFの耳に聞き慣れた声が届いた。

「貴乃花が披露宴したホテルってここですよね」

Tの発したその一言でFはペンを止めた。そしてハッとし、再びペンを走らせた。Tがフロントと交わす会話など耳に入らず、全ての記載事項に記入を済ませ ると、安堵し息を吐いた。

Fが書き終えたことに気づいたTは決して達筆とは言えない字で埋められた用紙に目を落とした。
そして氏名欄が目に入った 時、Tは自分の目を疑った。そこには「タカハシタカシ」と漢字で書かれてなければならい。しかし、明らかにそうとは読めない漢字が並んでいた。
Tは込み上げて来た怒りを堪え、Fの顔を睨みつけた。

その様子を不可解に思いながらFはゆっくりと用紙を手に取り、フロントに手渡した。その時、改めて自分が記入した氏名欄に目をやると、そこには、見慣れた自分の字で、



「高橋 貴子」



と記載されてあった。

タカハシタカコ・・・。Fがゆっくりと隣に目をやると、Tは厳しい表情のままの声を発することなく口だけを動かした。

「それじゃタカシって読めねえよ」「タカコじゃねえか」「女じゃねえか」と。

そんな殺気が伝わったのかフロントが2人に目をやろうとした直前、お互いが察知したように同じような咳をひとつして、フロントに視線を向け た。

そして、2人は何事もなかったかのように穏やかに微笑み、その2人の笑顔を見たフロントはゆっくりとルームキーを手渡したのだった。


探偵Tと探偵F、2人がコンビを組んだ時、調査成功率は脅威の数字を叩きだす。



探偵エス



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