●更新日 05/20●


密会の場所 前編


男女が密会する場所は様々だが、ある浮気調査の対象者となった男が選んだ密会場所は、


沼だった。





湖であればロマンチックな光景をイメージ出来るかもしれない。
不倫という禁じられた関係を月の光だけが優しく見守るように目の前に広がる水辺を照らす。「この時間だけは愛し合っても良いんだよね」と 、寄り添いながら呟きキスを交わす2人はもはや純愛なのかもしれない・・・。



しかし、そんなイメージなど実際の現場を目の前にすると一瞬で崩壊した。
周囲は外灯一つ無い暗闇、月の光を反射する隙間などまったくないほどヘドロで覆われたその水面は様々な人間関係を崩壊させようとする不気味さがあった。



密会する日は毎週火曜日と決まっていた。対象者は仕事が終わると浮気相手を自宅最寄り駅まで迎えに行き、そこから更に1時間以上車を走らせる。

目的地となる沼に到着するのは深夜12時過ぎ。沼のほとりギリギリで車を駐車させると、それまで閉じていたオープンカーの幌を開き、開け放たれた車内で行為に及んだ。
対象者がその場所を好んだのか、それとも浮気相手が好んだのかは分からない。どちらにせよその場所で行為に及ぶ感覚を理解出来る調査員は一人もいなかった。
とは言うものの行為に及ぶ姿を直接見たわけではなかった。ギシギシと音を立てる対象車両と息を殺しながら喘ぐ浮気相手の声が僅かに聞こえてきたからだった。

浮気をする場所は毎回同じ。車内で行為に及んでいることも現場の状況から推測できる。
しかし問題はあった。

真夜中の沼のほとり、外灯一つ無い暗闇。

浮気の証拠を撮影するロケーションとしては不利な条件が揃いすぎていた 。僅かな物音でも耳に届いてしまいそうなほど静まりかえっているため、不用意に近づくことは出来ない。だからと言って遠距離から撮影しようとも思えないほど辺りは暗闇で覆われていた。
しかし難しいで終わらせるわけにはいかなかった。綿密な打ち合わせと機材の準備をし、次の火曜日を待った。



つづく



探偵エス



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