●更新日 04/25●


ターゲットに恋した話(前編)


「夫の愛人を調査してください」

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50代とは思えないきめ細かい肌の女性依頼者は面談室に入るなりそう切り出した。

「慰謝料を請求したいから相手の経済状況を知っておきたいの。一ヶ月くらいお願いしたいんですけど」

一ヶ月??夫の愛人を一ヶ月も調査する必要はあるのだろうか?経済状況を調べるためなら一週間もやれば十分ではないか・・・。
そう思いながらもとりあえず依頼者が希望する調査期間の料金を提示した。

「お願いします」

決して安くは無い金額だったが、真っ直ぐに私の目を見てそう答えた。
ターゲットの情報を聞き、調査の方向性を話し終えた後、依頼者は少しずつ本音をもらし始めた。

「経済状況以外にも知りたいことはたくさんあるのよ」

年齢。外見。仕事 。居住先。食生活。交友関係。夫以外の本命の恋人。

「数えあげればきりがない、夫がどんな女を浮気相手に選んだのか知りたいのは普通でしょ」

夫の愛人の調査依頼を受けるケースは大きく分けて二つある。
一つ目は今回の依頼者が始めに話したような慰謝料請求のため。
二つ目は夫の浮気相手がどのような女性であるかの品定め。調査をしてみてその愛人が夫の人生を狂わす可能性がある場合には強行手段をとる可能性もある。愛人関係という一線を越えずに関係を続けていけば、そのまま黙認する。

「結婚して25年。それくらいの許容がないと続かないのよ」

あなたもそんな女性を選びなさいね、私が独身だと知るとそう付け加え、穏やかでそして悲しそうに微笑んだ。

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それから一週間後、一ヶ月間の調査は開始された。
ターゲットはモデル体型で童顔というアンバランスな魅力を持つ女性だった。
調査期間が長期に及ぶ場合はむさ苦しい男を尾行するよりもターゲットが若い女性に越したことは無い。
順調に調査は進み二週間が過ぎた。大体の生活スタイルは把握でき、どこにでもいる20代の女性という印象を受けた。友人はあまりいないようだった。恋人の影も今のところはない。
順調に進んでいた調査だったがやっかいな事が一つあった。
ターゲットは近所にあるスーパーマーケットの閉店間際の時間を好み、毎日のように通っていたのだった。

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閉店間際を選ぶ理由は安くなる商品を買いたいからというわけではないようだった。「蛍の光」が流れる店内は落ち着いて買い物を出来る状況でもなかった。
閉店間際のため、店内に私とターゲットが2人だけになってしまうということもしばしばあった。依頼者の要望で買い物の中身を見なければいけない、出入口で張り込むことは出来かった。

そんな日が何日か続いた時だった。

いつものスーパーで不意にターゲットから話しかけられたのだった。



つづく



探偵エス



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