●更新日 03/25●


夜の港にて


ある日の深夜2時。1本の相談電話があった。
相談者は女性。年のころは20代後半と言ったところだろうか。



「お電話ではちょっと……直接お会いしてお話したいのですが……」
「わかりました。では、いつどこでお会いしましょうか?」

相談者が指定したのは、実におかしな場所だった。

「港?」

しかも、今すぐ会って話がしたいという。

(ヤバイ取引でもあるまいに、なぜ「深夜の港」?)
しかし、名前や携帯電話の番号は教えてもらったので、イタズラということはなさそうだ。
すぐに指定の場所に出向いてみることにする。


港には誰もいなかった。

しかたなく、聞いていた携帯電話にかけてみる。
(RRRR……RRRR……)
コールはしている。しかし、電話をとらない。
(イタズラだったのか?)
そう思いつつ、もう一度かけてみる。


「……どちらさまですか?」

今度は繋がった。女性の声で返答がある。

「先ほど電話をいただいた探偵ですが。」
「……私、電話なんかしてません。」
「? この電話番号もその時うかがいましたが?」
「してません。そんな電話。」

一方的に電話を切られた。しかし、声はまちがいなく相談者のものだった。

(?? どういうことだ?)

途方に暮れて辺りをみまわすと、この人気のない夜の港に、一台の軽自動車が停まっていた。


近寄ってみると、エンジンもかかっている。

(まさか???)
近くに行って再度電話を入れると、車内から携帯の呼び出し音。
相談者に間違いない。

(しかし、何故?)
なにやらおかしな状況だ。とてつもなく嫌な予感がする。
周囲に気を配りつつ車に近づき、気付かれないよう用心しながら車内をうかがってみると、



助手席に大量の血痕!!

ただ事ではない。
もう、なりふりかまってはいられない。大急ぎで車内を覗き込む。
運転席には女性の姿。そして、ダッシュボードの上には、


血まみれのカッターナイフ。


(自殺か!!)
(やばい やばい! やばい!!)

即座に警察と救急に電話。事情を話して急行してもらう 。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

相談者の女性は、命に別状なかった。
手首を切りはしたものの、ためらい傷だったのが幸いしたらしい。

数日後、本人からお礼の手紙が送られてきた。
「もう、あんな馬鹿なことはしません。」と。
自殺も思いとどまってくれたようだ。
一時は肝を冷やしたが、もう安心だろう。とんだ人助けになったものだ。
  ・
  ・
  ・
(ところで、あの女性は何を依頼したかったのだろうか?)

それは、最後まで聞けずじまいだった。



静岡の探偵



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