●更新日 12/26●


バリ島の潜入捜査官だった男


荒木です。


「狙った獲物は地の果てまでも追いかける」
それが真のハンターの心意気である。
だから当然ながらアメリカ国外への追跡劇も必粋だ。
また旅行好きで行動派の私には好機であり、自然に体がうずく。

コードネーム「神風」と呼ばれる私の次なる任務は、インドネシアのバリ島へ逃亡したニョマン・カトウング(27歳)をLAへ連れ戻して留置所へ引き渡す事であった。
チャージ(罪状)は窃盗未遂。バウンティ(懸賞金)はUS3500ドル。
公判日までは国外出禁止の約束で保釈されたのだが、カトウングは母国のインドネシアへ帰国してしまった。

国外への追跡は地理を杷枠できてない事や、法律の違いなどで勝手が利かないせいで大半の捜査官が嫌う。
だから私に白羽の矢が立つ確立は高いのだ。
それにインドネシアは以前にデンパサール本署のアンダーカバーコップ(潜入捜査官)を一年余りやっていた事もあり、街に精通しているのでやり易い。

潜入捜査官時代。

LAX空港から機上の人となった私は一路バリ島へと向かった。


カトウングのプロファイルで実家のアドレスを杷枠していたので、初動捜査はそこから始まった。
このときは家族へのストレートな聞き込みをおこなった。
身分はバウンティハンターではなくバリの捜査官を名乗った。アメリカ国旗のバッジをひけらかすよりも地元の警察のほうが国民に対して効力を更に発揮するのは当たり前だからだ。
そしてやはり成果はあった。父親の証言でカトウングは数カ月前に姿を現していた。
だが二、三日ステイしたのちに出て行ってしまったのだ。
ここからがハンターの嗅覚の見せ所である。
まずはプロファイルを思い起こしてみた。
獲物の趣味は絵を描くことであったところに着眼した。
バリと云えば伝統民芸品のほか芸術家も多数輩出することで有名だ。特にウブッドという村はそのメッカである。
私は捜査官としての自分の直感を信じ、その聖地に進路を取った。


現地で聞き込みを丹念にしてみると、逃亡者の足取りが読めた。
カトウングは画廊で下働きしていたのだ。
本人の確認がとれたところで捕獲に入った。アメリカ本国と異なり、インドネシアは民間人が銃火器などの武器を所持すると死刑に処せられる。
カトウングが武器を携帯して潜伏している確立は低い。だから丸腰で挑んだ。
あっけないほど簡単にカトウングはお縄になった。
この稼業を始めてからというもの、こんなにスムーズな捕物は初めてだった。


暫くのあいだ好きなバリで過ごしたいところだが、警察時代の同僚との軽いフレンドシップを終えると、獲物をLAへとトランスポートして差し上げた。






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