９年越しの想い

「もしも時間を戻せる力があったら」「もしも、過去に戻れるとしたら」「もし、あの時をやり直せたら・・・」

こういう事を誰しも一度は考えたことがあると思います。

時間を戻すなんて現実には出来ません。皆それぞれやり直したい過去があっても、 どうしようもないまま目を瞑ったり、自分の気持ちに折り合いを付けたりして終らせることが大半。


でも、過去を完全に清算しないと、どうしても前に進めない方も中にはいます。

今回のご依頼者様は、まさにそんな方と言えるかもしれません。

「私は、９年前ある男性とお付き合いしていました。彼は当時２５歳。とても良い人で、某有名企業に勤めていました。当時私は19歳で、仕事が忙しいのに会う時間を作ってくれていた彼に対して素直になれず、わがままや文句ばかり言っていました。その時の自分は彼に甘えっぱなしの子供だったんです」

このように話し始めたのが、今回のご依頼者様である「原田知世」似の物静かな感じのする28歳の未婚女性Ｔさん。

（イメージ映像ですが、雰囲気的はこのような人でした）

「今思い返せばつまらない切っ掛けだったんです。彼と些細な喧嘩をして別れた時に私から一方的に連絡を取らなくしてしまい、様子を心配した彼が何度も電話をくれたり、自宅まで訪ねて来てくれたりもしたのですが、居留守を使って逃げていました。彼の事はずっと好きでしたが、 こういう態度を取ってしまって時間が経ってしまうと、今更どんな顔をして会えばいいのか解らなかったのです。その内に彼からの連絡も無くなり、自然消滅してしまいましたが、今思うととても恥ずかしく、彼に対して大変悪い事をしたと後悔しています」


「その後、他の男性とお付き合いもしましたが、昔の彼に対して自分がしてしまった事がどうしても頭から離れず、付き合っていく自信がなくなってしまい、結局私のせいでいつも上手く行きません」


「それでも、最近ようやく結婚が決まり、式の日が近付いてきました。でも、このままではどうしても自分の中で区切りが付かず、彼と幸せになれそうにもありません。何とか結婚式の前に元カレに謝りたいのです。どうか彼の居場所を見つけてこの手紙を渡してください」



聞けば、何度も彼に対してしてしまった事を忘れようとしたそうなのですが、その度に自分自身を責めてしま って、人付き合いそのものが苦手になってしまったとのことでした。

そんな中、今の婚約者の方と出会い、ようやく昔感じていた自分自身を取り戻すことが出来たと話してくれたＴさん。

そこで、過去の事を忘れるよりも、気持ちに整理を付けて前に進む為に元カレに思いを伝えよう、という考えに至ったそうなのです。


自然消滅で終ってしまった恋愛。その結末を作ってしまった自分の気持ちを苛むことが有っても、数年後に清算しようと考える人はどれだけいるでしょうか。私は、Ｔさんの話を聞いていて、自分を重ねてしまっていたかもしれません。

私はＴさんから聞いた情報を手掛かりに、さっそく調査を開始しました。元カレは失踪して行方知れず、という状態では無かった為、調査は通常の行方調査よりも順調に進行（※）。

※行方調査の殆どは、対象者に結びつく手掛かりが非常に少ない。その糸をどう手繰って行くかで探偵の腕が問われる



調査の結果、対象者である元カレは９年間で３度転居し、現在はある東北の都市に移り住んでいました。丁度１ヶ月程前、同じ会社の女性と御結婚をされ、社宅である今の家に引っ越していたのです。

現地に飛んで確認したところ、まさに新婚さんそのものの彼。

休日に奥様と仲睦ましく、ショッピングなどをしている様子は幸せそのものです。私はその後じっと元カレが一人になるのを待ち、何かの用事で家から出た彼にＴさんから預かった手紙を渡しました。

初めは当たり前ながらビックリされていたご様子の彼も、手紙を読み終えると、

「実は俺もあの頃は若くて、仕事仕事と言いながらも遊んでいたからお互い様。そんな事は忘れて貴女も早く幸せになってください」

このように、笑顔でビデオメールを撮らせてくれました。

撮ってきたビデオメールを事務所に持ち帰り、Ｔさんにお見せすると、

「これで胸のつかえが取れました。安心して前に進むことが出来そうです。本当にありがとうございました！あ、ビデオテープはそちらで処分してくださいね」

何度か繰り返しビデオメールをご覧になった後、Ｔさんは本当にさっぱりしたご様子でお帰りになったのです。

過去への区切りがＴさんの望んでいた結果になって本当に良かった。その笑顔はまさに探偵冥利に尽きます。

それにしても、９年前に付き合っていた彼女からの手紙を突然手渡された元カレ。新婚一ヶ月というタイミングもあってか、本当にビックリされていました（苦笑）

御依頼者様の依頼の為とはいえ、驚かせて（焦らせて？）しまって本当にゴメンなさいね。



女探偵　ノゾミ