●更新日 06/13●
殺人依頼は10万円(前編)
1人殺ると、後はラクですよ。
殺しを依頼した男とのコンタクトに成功した。
ある喫茶店。目の前の男は、煙草を片手に持ち言った。
辻村(仮名、写真)は日本でホストの職に就く一方、フィリピンの首都マニラに家とレストランを持ち、年の半分を過ごす。
1人目の殺人依頼は、数年前に開いたレストランを巡るトラブルが原因。
土地付きでレストランを買ったが、その土地に問題があった。フィリピン人ブローカーが他人の土地を勝手に売ったのだ。
激しく問い詰めると、騙し取ったことは認めたが、契約書を盾に取り、金を返さない。
「訴えても日本人に勝ち目はない」ので、タガログ語の出来る彼が、付き合いのある犯罪組織に相談すると、
バラしたら?
躊躇した辻村だが1週間後、決断した。
――殺すと決めた根拠は?
何もないですね。ムカついて……それが溜まっていきました。
――気は短い?
キレます。日本では違いますけど向こうへ行くと早いですね。釣銭間違っただけでも怒鳴り散らします。
時おり人懐っこい笑顔を浮かべ柔和な口調で語る彼が、とても殺人に関わった人間には思えない。
それまで暴力とは無縁の生活を送る普通の人間だった。
何故フィリピンではキレやすくなるのか、何が彼を殺人へと後押ししたのか、訊ねても明快な答えはなかった。
辻村はカフェで組織に殺人を依頼した。10万円だった。
決行当日の昼、彼の携帯に電話があった。
今から殺る。
よろしく、と言った瞬間ですよ。デカイ音ですねアレ。
パーンと銃を撃つ音が聞こえました。
驚きましたよ。うわっ、という感じで。
Taposna (タポスナ)
タガログ語で「終わった」と告げ、電話は切れた。
カフェで眉間を撃ち抜かれた死体の写真を見せられると、気分が悪くなった。
映像がずっと記憶に残っているが、憐れむ気持ちはないという。
結局金は返らなかった。
次回、辻村は殺人の瞬間を目撃する。
後編へ
ぽん
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