●更新日 12/12●

中吊り男のうれしい誤算


仕事をしていると奇妙なハプニングが稀にある。


「中吊り」というものをご存知だろうか。
電車の中に吊り下げられている広告のことだ。
その中吊り広告の取替えを職業としてやっている人たちがいる。



複雑な手さばきと、運行スケジュールに合わせる速さが要求され、新人のほとんどがやめていくという難易度の高い仕事なのだが、ときおり奇妙なハプニングが起こることもある。



現役の職員さんに話を聞いてみた。

「変な臭いだな」と客がまばらに立っている車内を進むと、車椅子専用スペースの奥で、中年男が赤いミニスカート姿の若い女の正面に立ち、女の股間を弄っていたんです。
痴漢っ!と思ったのですが、次の瞬間二人の傍に立つもう一人の男が目に入りました。そしてビデオカメラを構えていました。


実は
AVの撮影だったのだ。

さらに職員さんは続ける。


小柄で細おもての女は、中年男の肩に両手を掛け、目を瞑って口を半分開き、規則正しく吐息を漏らしていました。その時
「この電車、逃していいかも」



、彼らのすぐ傍に広告の束をおきながら、ふとそんな考えがよぎりました。(『逃す』とは作業をやり残すこと。恥です)
ただ、仕事を『逃した』ときの冷んやりとした事務所の雰囲気。まだ脳裏に焼きついています。
しかし、目の前では女が悶えてます。
どちらを選べばいいのか!?


結局、仕事を選びました。あたり前ですが…。
作業を終え戻ってくると、AV三人組は吊革に捉まり先ほどの行為など微塵も感じさせず和やかに談笑しており、車内のすえた臭いはより強烈になっていました。


このような困難(?)を克服して一人前の作業員へと成長していく訳だ。ちなみに彼らの給料をきかせてもらった。





手取り14万9千435円。


給料も含め、なぜあえて彼はこの職業を選んだのか?
そのことについての理由は最後まで言ってもらうことはなかった。



ぽん


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