●更新日 08/27●

日本の職人シリーズ 〜漆塗職人〜


日本に伝わる古き良き技を伝えたい、知って貰いたいと言う想いを記すこのシリーズ。
第3回は、『漆(うるし)塗り職人』!
取材をお受け下さったのは、角光男親方です。

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「漆塗り」とは?
漆(うるし)と言う落葉高木があります。この木から精製したものが塗料としての漆となります。
この漆の歴史はかなり古く、縄文時代に漆を塗った物などが出土しています。
この漆を塗る職人を「塗師(ぬし)」と言います。
漆には何種類かありますが、最近は中国産の漆や、カシュー、ウレタンを使った物が多いです。”低品質で大量に”と言う考えが主流となっている現代、本物の日本漆を使った本物の品は驚く程少ないです。
漆の消費量のうちの7割がカシューなどの類似品。残りの3割が本物の漆で、そのほとんどが中国産。そのうち日本の漆は僅か2%なのです。
本物の漆は使い込むと、透明感と艶が出て味が出て来ます。
逆に使う事によって色褪せる品があります。これは類似品や、粗悪な中国製漆なのです。

漆職人になろうと思われたのは何歳の時、どのような事からですか?
福井出身なのですが、16歳の時に子守を頼まれて東京に出て来た時に、この仕事に出会いました。高校を辞めて直ぐに働きたかったのですが、「まずは高校卒業してから」という身内の言葉に従い、高校卒業と共に上京して修行を始めました。
特に初めて嗅いだ漆の乾いた匂いが印象的だったのをよく覚えています。

修行をされている間、辛い事などはありましたか?
最初は長時間座っている事が辛かったですね。
それと、冬場は暖房器具など無かった時代でしたからね、今と違って本当に寒かった。アカギレが裂けて血が流れるような事が続きました。
辛いから辞めようなんて思った事は1度も無かったけどね。

1番の喜びはなんですか?
やはり、お客さんが喜んでくれて使ってくれている事ですね。
中には、「もう何年も愛用しています」と言って下さる方もいらっしゃる。大事に使ってくれていると思うと、自分の子供の事のように嬉しいですね。

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             ▲角親方の漆器(お椀)

どのような品を手掛けているのですか?
今は家庭用の雑器ですね。お椀、ビアカップ、お皿、陶器製品などですね。
ですが、これだけでは無く、色々なモノに漆を塗るという挑戦をしています。今は「金属に塗ってみてはどうか?」「布をもっと使えないか?」なんて試行錯誤しています。

得意な種類は?
種類と言うか、模様ですね。
師匠が得意としていたのが渦模様で、「飛鳥塗り」というモノがあったのですけど、これを私なりに自由に工夫して「潮流紋」としました。最近は、これを真似する人も出て来ましたけどね。
江戸漆芸ですから、加飾より丈夫さに重きを置いています。

ビアカップが人気だとか?
そうです。最初(6〜7年前)は売り物では無く、知り合いにタダであげていた物だったのですが、妙に「これで飲むとビールが美味い」と好評で、欲しいという人が増えたのです。そこで試しに売り物にしてみた所、かなりの人気商品となりました。

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             ▲大人気のビアカップ

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  ▲購入された方からの声(クリックすると拡大します)

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▲注いで3分経っても、泡がなくなりません。

昔に比べて、漆が変わった事はありますか?
最近はカシューやウレタン等の人工的なモノが多くなりましたね。本物が少なくなったし、本物を解る人も少なくなりました。ですから、この”本物を知る人”を増やすのも私達の役割だと考えています。
ただ売る事だけを考えるのではなく、本物を伝える事も大事だと思います。

仕事をする上で、心掛けている事は何ですか?
丈夫で、ずっと使える品を作る事ですね。
何年も続けて愛着を持って使って貰える物。そんなに直ぐに壊れていたら意味が無いのです。
作家と言うのは、良い物を1つ作ればそれでいいですけど、職人は1つ1つ全て、買い取ってくれた方に安心して使ってもらえる品じゃなくちゃいけない。それが職人と言うものなのです。
丈夫な品だと、同じ人が何回も買う訳では無いですけど、その代わり、「良い品だよ」と他の人に伝えて、それを聞いた人が買ってくれる。これで良いのです。
それと、簡単な方法でしたらいくらでも出来ますが、そうはしません。1つ1つに工夫や考えを盛り込んで作っています。ですから、同じ物は2つとありません。

最後に一言
漆器は取り扱いが難しいと言われますが、その様な事はありません。本来は日常品ですから、本物は飾るだけでは無く、どんどん使って頂ける物なのです。粗悪な類似品が多い為に誤った認識が広まったのも原因でしょう。
漆はたくさんの効果を持っています。例えば少し欠けてしまったり、ヒビが入ったりしても、漆が水分を吸収したり、接着剤のように作用してつなぎとめたりして、問題無く使う事が出来るのです。
是非、漆器の素晴らしさを知って欲しいと思います。



現代に活きる職人の技。
素晴らしき技術を次の世代へと受け継いで行きたいものです。


漆器の出来るまで


〜 取材こぼれ話 〜
漆器は海外では、「ジャパン」と呼ばれているそうです。これは宣教師であるフランシスコ・ザビエルが安土桃山時代にやって来た時にそう呼んだのが始まりと言われています。また、陶器の事は「チャイナ」と呼ぶそうです。

漆を塗った器の事を漆器と言いますが、これも竹製品に塗る『籃胎(らんたい)』、陶器に塗る『陶胎(とうたい)』と言います。



協力:『日本職人名工会



探偵ファイル・キム



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