恐るべき駄菓子屋
〜 15年間無敗!? 〜


スポタンの馬券予想が“楽しむための競馬”であれば、探偵魂は“生活費として儲けるための競馬”。これからの話を信じる信じないはあなた次第……。

情報女:「○○さん、シモキタのワル○キ○ロンってとこ行ってきてもらえます?」
記者 :「そこで何か?」
情報女:「駄菓子屋のおじさんの競馬予想が当たるって有名なの。有馬記念の予想聞いてきて欲しいなァ」
記者 :「あ、はい。いいですよ」
聞くところその駄菓子屋は夜しか開かず営業日はマチマチ。おじさんのトークに一旦捕まると2時間は喋りっ放しというが、機嫌を損ねやすく、そうなると競馬予想は教えてくれないよう。一方でカワイイ女の子が来ると喜ぶというのだから、当記者(男)にとっては出だしからハンデをもらったようなものだ。
下北沢の駅を降りて3分ほどの商店街、その駄菓子屋は静かに戸を開いていた。辺りはコンビニ以外全ての店が全てシャッターを降ろしているのですぐ分かった。

写真
店の中は狭く、人と人がすれ違うのがやっと。中には昔懐かしの駄菓子やオモチャが並ぶ。キャラクターで言えばドラえもんが断トツに多いか。王・長嶋時代のジャイアンツモノも目に止まる。こちらが喋りかける前に、おじさんからボソボソと喋り始める。
おじさん:「お兄ちゃん、雑誌見て来たんだろ?」
記者  :「あ、いや、ちょっと知り合いから」
おじさん:「あっそう。テレビとかにも出てたけどね、最近はもう取材断ってるの」
記者  :「そうなんですか」
おじさん:「『笑って○いとも』とか『何でも鑑○団』とかね、あんなの嘘ばっか」
記者  :「はあ……」
おじさん:「NHK見なきゃ駄目だよ、ブリキのオモチャが何十万なんてあるわけないの!」
何の恨みがあるのか分からないが、おじさんは『何でも鑑○団』が嫌いだということを強調する。
店内には競馬雑誌やカレンダーなどもおいてある。競馬の話題になるよう、その辺りにも気があるように見せてみた。
おじさん:「お兄ちゃん、競馬はやったことある?」
記者  :「まあ、たまに」
おじさん:「何見て予想してる? 新聞とかテレビでしょ?」
記者  :「ええ、まあ基本はそうですかね」
おじさん:「駄目駄目。あんなの嘘なの。嘘っぱち。馬の名前とか人気とか騎手とか関係ないの」
記者  :「はいっ?」
おじさん:「武豊が走るのかい? 走るのは馬だっての。人気だって馬鹿な新聞記者が印打ってるせいなの」
記者  :「そうかも知れませんね」
おじさん:「そうかもじゃないの! ああいうの見ているうちはみんな馬鹿なんだから。これ見てみなよ」
ポンっと手渡されたのは2年前の競馬雑誌。ページを開くとおじさんの顔が……。予想屋200人を集めて1万円をいくらに増やせるかという企画だったらしく、おじさんは見事優勝。約35万円の稼ぎを見せた。そしてさらに驚くべきことに、おじさんはGTレースの予想を15年間外したことがないというのだ。(ちょっと信じられない……)
他のページにはおじさんの無料HP(現在は閉鎖)が断トツの回収率を誇っていることなどが取り上げられており、やはり只者ではないということが伝わってくる。
別の青年:「おじさん、有馬は何が来るの?」
おじさん:「もう遅いよ! 一週間前に来なきゃ駄目だよ! そしたらそこに貼って教えてるんだからさ」
別の青年:「そこを何とか!」
おじさん:「もうおじさんは金杯(正月のレース)まで予想してるの。有馬なんてとっくに終わってるよ」
別の青年:「……」
おじさん:「だからさ、こういうの見て勉強しろっての。ほら、これおじさんの昔の予想」
別の青年:「すごいっすね。うわー懐かしい。バブルガムフェローとかエアグルーヴとか」
おじさん:「だから馬の名前なんて関係ないの! おじさんが教えてる子らは馬の名前なんて知らないよ」
青年は何としても有馬記念の予想を聞こうと頑張ったが、おじさんは「もう2月なの!」と何度も繰り返しはねのけた。青年は駄菓子を数点買い、渋々店を引き上げた。当記者もこの時期に有馬記念予想を直接聞くことは不可能だと判断し、ヒントだけでももらって帰ろうとしつこくその場で話をすることにした。

写真
▲ソースの染み込んだビッグカツ

おじさん:「有馬の朝は地面が霜柱で凍るよ、どうなる? 運動場と一緒だって」
記者  :「カチンコチンになって……」
おじさん:「走りやすいだろ? でも昼になったらどうなる?」
記者  :「それが溶けてグチャグチャに……」
おじさん:「だろ? 良馬場とか発表されてもそんなことはないの」
記者  :「ですね」
おじさん:「だから新聞なんて信じてちゃ駄目なんだよ、さっきの奴は一生勝てないよ」
こうして話をしている間にも、おじさんの店には電話が何度もかかってくる。予想を聞くためだ。おじさんのもとには大物芸能人(お笑いで長者番付に名前の出る人物)、スポーツ選手(番長クラス)も聞きに来るという。しかし一方で我々のような一般人にも予想を教えてくれる(指導までしてくれる)。GTレース一週間前は店頭に予想を公開するのだが、そういったことは全てボランティアだと言っていた。
そしておじさんは記者に対し、広辞苑以上の分厚さを誇る“お礼”(振込伝票コピー?)を見せてくれた。全国から“家が建ちました”などのお礼の手紙とお金が届けられるというのだが、税金で持っていかれるため断っているという。「本当ですか?」と聞いても「だって当たるからだよ」という分かり易すぎる答えしか返ってこない。

おじさんは他にも色んなこと(社会についても)を語ってくれた。(1時間以上)
・ 大井競馬場の(良く当たる)予想屋は金を払った奴だけに教えてんだよ。脇でタダ聞きする奴には嘘言ってるよ。
・ 最近の茶髪でピアスなんて奴は駄目に決まってるよ。
・ 自衛隊のイラク派遣で国は金がないの!(よって路駐取締りが急増中なの!)
・ 選挙行かねー奴は国民じゃねえよ。銃殺刑にするくらいじゃないと駄目だな。

――帰り際、
おじさん:「シンボリクリスエス(1番人気の馬)なんて言ってるヤツは駄目だよ」
最後に残したおじさんの言葉が本心なのか、長時間居座った記者を怪しんで惑わせようとしたのか、それは分からない。しかしおじさんはこの世の全てのことを見透かしているような感じさえした。次のGTレースは2月。その1週間前にもう一度予想(そして真実)を確かめに行きたい。

最後に、おじさんの手記の一部を紹介。
金が欲しいのは何も競馬ファンだけでなく民間企業、商店、個人、公共団体、JRAも同じである。馬券の売上が減少すると競馬の継続も怪しくなります。そのためJRAも必死です。金の動きの激しい年末は競馬愛好者の夢を見させる大穴馬券をたくさん奮発して売上増を計画している筈です。JRAの大サービスが始まります。当勉強会の新人は馬の名前、騎手の名前、厩舎情報、オッズなど何も知りません。ただ勝つ馬を買っていて、人気がないと大穴馬券になっていて、人気があると配当が安いだけなのです。





探偵ファイルTOPへ戻る