シリーズ『離婚』第三弾

〜 熟年離婚と超核家族化 後編 〜




リストラで退職したことを機に、佐々さんの奥さんの美恵子さんから「離婚したい」と最初に言われてから3ヶ月。 とうとう、美恵子さんは弁護士を通じ、家庭裁判所に調停の申し立てまで行ってしまいました。 もちろん、佐々さんも手をこまねいてみていた訳ではありません。 家族内での話し合い、そして美恵子さんの相手の弁護士にも、話し合いに行きました。 しかし事態は好転しません。

そして、美恵子さんは新しくマンションを借り、家を出て行ってしまいました。

「どうして、こんな目に遭わなければいけないんだ」

佐々さんは家で飲むお酒の量も増え、最近はギャンブルにも手を出すようになりました。 そんなある日、家庭裁判所から調停の呼び出し状がやってきました。
なにしろ、裁判所に行くことなんて今まで無かった佐々さん。 弁護士を雇うかどうかも迷いましたが、一念発起して、佐々さんは自分で本を買い、調停に臨むこととしました。

    ・家庭裁判所から呼び出し状が届いた場合、まず、あなたが自分で調停に望む
     のか、それとも代理人(弁護士)を依頼するのかについては、状況による為
     一概には言えませんが、調停の性格上、本人からの事情聴取も多く、通常の
     サラリーマン家庭の場合では、費用面から考えても弁護士に依頼するよりも
     自分で行う方が多いようです。

    ・調停は、"家事審判官" と呼ばれる裁判官と男女各1名ずつの "家事調停委員"
     が進めることとなっていますが、実際は家事審判官は出席せず家事調停委員
     だけの場合が多いようです。また、調停は非公開の "調停室" というところ
     で申立人と相手方が別々(交互)に調停室に入り話し合う形で進められます。

    ・1回の調停時間はおよそ40分程度であり、ある程度の結論が出るまで20-30日
     程度の間隔をあけながら半年程度の調停を行います。ただし、途中で調停に
     なじまない、と判断されたときには審判への移行や、"調停不成立" を宣言
     されることもあります。調停不成立に関しては、異議申し立ては一切できま
     せん。審判についてはまた別の機会に...。
いよいよ最初の調停日がやってきました。 まずは美恵子さんの主張を調停委員が聞く形で行われました。 美恵子さんと調停委員の話合いの様子はまったくわからないため、佐々さんはいらいらするばかりです。
待合室の灰皿がいっぱいになる頃、佐々さんは調停室に呼ばれました。 自分の主張として...

(1)リストラはされたが、生活レベル、財産から見て今後の夫婦生活に支障は無い
(2)別れる意思は無い

この2点を主張したところ、調停委員は...

「結婚してから家庭の事は殆どやっていなかったというのは本当ですか?また結婚以来、何度か浮気をしているそうですが、事実でしょうか?」

と穏やかな口調で言いました。

「確かに、そういうことはありました。家庭の事は、仕事が忙しく仕方がなかったのです。」

と反論する佐々さん。

「忙しいのなら、浮気をする暇は無いはずですよね?」

逆に調停委員に突っ込まれてしまい、佐々さんはすっかりしょげて...

「そうですが・・・。」

というのが精一杯でした。

    離婚紛争中には【財産分与】【慰謝料】等の問題が発生しますが、紛争の決着がつく前に、夫婦の共有財産を勝手に処分されてはたまりません。
    そこで、【保全手続】というものを行うことができます。
    その中には(1)調停前の仮処置(2)審判前の保全処分(3)訴訟における民事保全 があります。

    調停前の仮処置
     調停終了までの間、当事者・弁護士の申し立てにより、調停委員会が職権で
     必要な処分を命ずることができるものであり、処分命令としては

     1.現状の変更、物の処分禁止
     2.その他、調停の内容となる事項の実現を著しく不利、困難、または不能に
      するもの

     などがあります。

    審判前の仮処分
     審判申し立て以後、当事者の申立てにより...
     1.仮差押
     2.仮処分
     3.財産の管理者の選任、その他必要な事項についての保全処分
     を命ずることができるものであり、内容としては紛争中を含む婚姻費用、養育
     費の支払い、子の引渡し、預貯金の仮差押、不動産の処分禁止などがあります。

    民事保全法による処置
     離婚訴訟となった場合は、民事保全法の財産保全申立てをすることができます。
     内容としては不動産預貯金、給与債権などの仮差押、財産の処分禁止の仮処分
     などがありますが、いずれにしろ保全申立てが認められるかどうかは裁判所が
     決定します。

    ※保全処分のやり方については、裁判所職員、または弁護士にご確認ください
美恵子さんは再度、調停室に呼ばれていましたが、佐々さんは呼ばれることが無く、最初の調停は、これで終わってしまいました。

「いっそ、この家も処分して、さっさと離婚に応じたほうがいいのだろうか。。。」

いろいろ考える佐々さん。 今まで、妻に頼りきりだったため、自分の面倒も自分で見なければなりません。 再婚を考えるような気力があるはずも無く、また、今後の相続問題なども考えた佐々さんは、退職前よりも10キロも体重が落ちてしまいました。

                    離婚と相続

    離婚の際、「財産分与」「慰謝料」の問題が発生するのは以前にも述べましたが、 自分が死亡した際の相続については意外と見落とす方が多いようです。本人は死んでいないのだから仕方ありませんが...。
    さて、相続ですが、ここの佐々さんのケース(法定相続であり、他に子供は今後もできないことを仮定する)では、離婚後の財産は...

    1.佐々さんが離婚後、独身のまま亡くなった場合
     子供2名に対して遺産を2分の1ずつ相続
    2.佐々さんが離婚後、再婚してから亡くなった場合
     妻に遺産の2分の1、子供2名には遺産の4分の1ずつ相続

    もちろん、将来美恵子さんが亡くなった場合も、上記と同じ扱いとなるわけですが、注意が必要なのは "2" のケースです。 この場合、再婚した妻(夫)と、子供2名が養子縁組をしていない限り、再婚後に亡くなった場合に子供はその財産を相続することができません。
    また、上記 "2" では再婚した妻(夫)に対し、遺言などである程度の遺産分与の形式は指定できますが、【遺留分(法定相続)】があるため、再婚した妻(夫)に対して全く遺産を払わずに済ますことはできません。 (よく、土曜ワイド劇場などでは後妻に対する遺産相続とかで揉めますが、まさにあれです。)
今佐々さんは、このまま離婚に応じるか、それとも調停を経て、正式に地方裁判所に裁判を起こすかどうかで悩んでいます。


本件のような熟年離婚のケースが増えることにより、将来の「超・核家族化」を招くものとして各方面からそれに伴う弊害、懸念が示されています。社会福祉や福祉行政の面も含めて、我々が考えていく問題はまだまだ多そうです。


次回は、離婚裁判についてのコラムをお届けいたします。


  ※離婚紛争の際は、弁護士に依頼することをお勧めします。
   探偵ファイルではご相談に応じることは一切できません。
   文中に出てくる人名、地名はフィクションです。



( 探偵ファイル・二階堂 )



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