スパイ日記
渡邉文男



10月25日(木)


指令(71)


スパイをやってて、今までで一番怖い、と思ったことを白状してください




政治家のお庭番(スパイ)だった若い頃の話。




ある街で自殺者が出た。選挙の運動員がビルの屋上から飛び降り。


遺書があるため警察は自殺と判定。


先生からすぐに調べて来いと言われ、任務に就く。




人口6万、そこそこの街だが、入る前から警戒行動を取り


オートバイに乗ってツーリングを装う。


駅に一件しかないビジネスホテルには泊まれないのだ。




殺しをする組織をなめてはいけない。




自殺の現場なんか行かない。そんな場所を見てもしょうがない。




すぐさま敵対候補に矛を向ける。




電話盗聴だ。(今は法律が厳しいのでやれない)




昔の盗聴器は「弁当箱」と呼ばれ、常にそばにいて録音しなければならない。




敵対候補の金主(スポンサー)の持つビルに夜間忍び込み、配電盤のある小さ


なスペースに身を隠す。




身体は、二つ折りに近い。まるで折檻を受ける子供だ。




暗闇の箱の中で神経を研ぎ澄まし、着信の度に録音ボタンを押す。


時間が気になるから時計は持ち込まない。飯や水分も二日前から摂っていない。




夜になったからと外にも出ない。密談は深夜交わされるからだ。


その糸口は、ほんの数秒かも知れない。


しかし、何の証拠も掴めないまま、二日間の時が過ぎる。


我慢の限界が来る。このままだと筋肉がやばい。そう感じて扉を開けた。










いや、開くはずだった。








扉がびくともしない。









こんな時の恐怖感、絶望の淵・・・・。






入るときに何度もテストをした!! 


出られないわけがない!!


誰かに封緘された記憶も無い。




寝るのは外気(温度)が下がったと感じる明け方の約2時間だけ。


焦る。・・・・・数時間経過。




外で人の話し声がする。社員の出社時間。また動けない。




テレビなら、誰かが助けに来るだろう。しかし、私は独り。サポート体制など


ないし、どこにいるとも誰にも言ってない。




絶対の恐怖。




既に、足腰は麻痺して感覚が無い。つまり、扉を蹴り破ることはできない。




一週間分の水と携帯食は持っている。




だが、その水も辺りにぶちまけたくなる。


この苦痛が続くのなら、早く死のうか・・。






注:閉所恐怖症の人はこの先は読まないほうがいい。


「代理被害」で気がおかしくなるかも・・・・











外の音が聞こえているうちはまだ人間だった。




最後の社員がシャッターを下ろす音。




今、叫ばなければ、このまま気が触れる!!という瞬間だ。


私は、口を必死に押さえた。声を出さずに、泣きわめきながら。






かすかに動く左手で、ドライバーがついたアーミーナイフを使って何百回と


扉を開けようとした。


親指、爪の付け根を深く傷つけてしまう。


(この時の傷で、いまだに爪がまっすぐに生えない)




もう無駄だと悟ったのは、四度目の明け方を向かえた時だ。


眠くもない。なぜか焦りも消えた。




すでに人間の意識が消え失せたのだ。




そのうち、左手が動かなくなった。わずかに動く右手で、人間として最後の


記念にと、自慰行為をした。


大量のスペルマを放出させる。




次に水を飲み干す。


糞・小便をそのままたれる。


あと少しで逝きそうになった時・・・・・・・!・・・光が・・・・








・・・・・・・・18年後・・・・・・・・・






私は生きている。


あの時、九死に一生を得たからだ。




ノンフィクションのため、何が起きたのか、はっきりとは書けない。


だが、どうして助かったのか? 答えの大ヒントは、下のボタンを押すと出る。




明日の「探偵魂」スタートをお楽しみに。




塩とかけて  小さくなるととく