ある女性からの依頼でした。
年は50才半ば、とても穏やかな笑顔をされる、素敵な女性でした。
この男性の素行調査をして欲しい、ということで、男性の勤め先を
聞きました。やはり50才半ばの男性です。
依頼者とは姓が違いましたので、お付き合いをされている方かな、と
思いましたが、余計な詮索はせず、黙って調査を受けました。
その男性は、大手食品会社の部長補佐で、江守徹に似た紳士でした。
尾行をするうちに、同じ部署のOL(23才)とかなり深い関係であることが
分かりました。
日曜日、堂々と手をつなぎ、銀座でデート。
映画を見たあとのレストランで、夏休みに行くグアム旅行の話。
私は「ああ、二人は結婚するんだな」と感じました。
このぐらいの年齢差のカップルで、人の目をはばからずに交際している場合
周囲に交際を公言している場合が多いのです。
案の定、社内でも評判の仲で、やはり近々の結婚も宣言していました。
女性の身元を調べると、父親と二人暮し。大学を出て就職し、すぐにこの
男性との交際が始まったようです。
愛くるしい、幼い顔立ち、やわらかい雰囲気。世の中年男性にとってみれば
何とうらやましい、ということになるでしょう。
私は一週間分の報告書を持ち、依頼者の待つ喫茶店へ行きました。
依頼者は報告書に目を通すと、がっくりと肩を落としました。
「渡邉さん、実は・・・」
「はい?何でしょうか」
「この子、私の娘なんです」
うわ、親子どんぶりか!と驚く間もなく
さらに衝撃的な事実を聞かされました。
「 この人(男性)と私は、若い時分に付き合っていたんです。そして
この人の子供を身ごもった頃、ささいな喧嘩で別れてしまいました。
でも、子供だけはどうしても生みたかったので、この人に内緒で
生んだんです。それが、この娘です」
・・・・・・!!
「 私は子連れで結婚し、すぐに離婚しましたが、この娘は前の夫に
引き取られました。
ですから姓が違うのです。それで、もうすぐ娘が結婚するよ
と、前の夫から聞いたんです。
そして、相手の男性の名前を聞いて、まさかと思い、調査をしたら・・・」
女性はショックのあまり、泣き崩れた。
何と言うことだ。あの二人は、互いに父娘であることを知らないのか・・・・
こんな偶然があるものなのか・・・
この事実を二人が知れば、あまりにむごい結末が待っている。
私は、依頼者に代わってこの事実を男性に伝える役をかってでた。
娘やその家族には知らせるべきではない、と思ったからだ。
私は依頼者の名前を出して男性と会い、事実を話した。
そして、こう付け加えた。
「あなたがこの重さを一生背負ってもなお、娘さんを伴侶として選ぶなら
どうぞ結婚して、大事にしてください。
そして、くれぐれも他人に気づかれることのないようにしてください」
男性もまた、周囲の目を気にする暇(いとま)もなく、泣き崩れた。
最愛の女性が、実は自分の娘だったという衝撃は、計り知れない。
一年後
娘は会社を辞めていた。
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