●更新日 05/15●
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「診察室に、答えは無い」 精神科医ヤブさんの日記





「ヤブ先生、この前から仕事に戻れましたよ! うつ病も治ったし、母ちゃんの夜の相手もできてます」

こう言って笑うのは、50代の木下さん(仮名)。前回受診時に、私はそろそろ仕事に復帰することを勧めていたのだ。目に涙をにじませながら、笑顔で木下さんは私の手をとった。

「ありがとう、先生。ありがとうね」

何度も頭を下げながら、木下さんは診察室を出て行った。


木下さんは、数年前に会社を辞めて個人タクシーを始めた。もともと働き者で仕事は順風満帆、なんのトラブルもなく、売り上げも順調。わりと規則正しい生活をしながら精力的に働いていた木下さんだったが、ある時期からだんだんと食欲が低下し、眠れなくなり、とうとう仕事もできないくらいのうつ状態になってしまった。


強いストレスがかかれば、ほとんどの人は「うつ状態」になる。これを病気だといって診断書を作成し、仕事を休ませて抗うつ薬を飲ませれば「うつ病患者」の一丁上がりだ。しかし、そういう診療はしないヤブサンの診察室では、

「うつ状態になる原因が明らかにあるのに、薬を飲んでハッピーになっても仕方ないでしょ」

そう言って、まずは睡眠や飲酒習慣を改めさせ、環境調整に尽力する。
薬の出番はその後だ。


さて、木下さんをみてみると、うつ状態の原因になるようなストレス因子はハッキリしなかった。家庭円満で、対人関係も良好、上記したように仕事にも問題はなかった。いろいろと探った結果、木下さんは抗うつ薬がよく効くタイプのうつ病だと判断した。その診立ては的中し、木下さんはだんだんと良くなっていったのだが、うつ状態が改善して元気になった後に、


「先生、インポになってしまいました。もう薬をやめたい。このままだと、母ちゃんの相手ができんのですわ」



精神科



つづく



ヤブさん ヤブさん


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