●更新日 06/29●


新人探偵ダサ男


探偵にも様々なタイプの人間が居るが、新人Sいかにもな男だった。

360度、どの角度から見てもダサイ
その風貌から機材関係に詳しいのかもしれないと微かな期待をしていたものの、その期待はあっさりと裏切られた。

ただダサイ、それだけの男だった。

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調査現場に同行させると、張り込みをするたびに付近住民に通報され、職務質問をされるということが毎度のことになっていた。それだけならまだしも 、時には対象者から警戒されるという事態にまで陥ることもあった。
しかし、明らかな失敗はなく1ヶ月間が過ぎていた。

そんなある日、ついに恐れていた事態が起こった。

Sの尾行が対象者に発覚し、調査が大失敗したのである。

調査が終わって事務所に戻る車中、Sは俯いたまま顔を上げることはなかった。言葉を発することもなく、身体が小刻みに震えていた。

「お前の行動で依頼者を不幸にしてまうことだってある、探偵を本気でやりたいなら覚悟が必要だぞ」

私のその言葉にSはただ力なくうなだれているだけだった。

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大失敗の調査の翌日、Sには休暇が与えられた。今の状態で調査に出せば再び失敗をしてしまう可能性が大いに考えられたからだ。
大きな失敗を切っ掛けにして辞めてしまう新人が多かったため、事務所全体に「またか」そんな空気が漂っていた。

Sはもう来ないかもしれない、そんなことを思いながら2日後事務所に行くと、見知らぬ男の背中が目に入った。


「おはようございます!」


私がドアを開けた音で振り返り、そう言ったのはSだった。 一瞬自分の目を疑ったがそこに立っていたのは間違いなくSだった。その風貌は2日前までのそれとは全くの別ものに変わっていた。

目を覆い隠すほどあった髪は短く切られ、いかにも度が強そうなメガネは外されていた。そして、360度ダサかった服装は一変、落ち着いたカジュアルなものに変わっていた。今までとは180度印象の違う、爽やかな男になっていた。

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私を含めSの大変身を見た誰もが驚き、笑い、茶化していたが、その全員がSの意気込みを評価していたことは明らかだった。

外見だけでなく、失敗したことで人一倍の努力を続けたSの成長ぶりは目を見張るものがあった。それ以降、現場で警戒されることはなくなり、安心して調査を任せられる存在にまで成長していった。


「こんな僕なんかでも他人の人生を良い方向に導くことが出来るんですよね」


大変身を遂げてから1年が過ぎた頃Sが言ったその言葉は、今でも私が探偵を続ける力になっている。



探偵エス



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