この子の将来（前編）

彼女には、前の夫との間にもうけた子供がいた。

現在５歳。

離婚して親権を得てから、彼女が女手一つで大切に育ててきた子供だった。

やがて彼女は再び縁に恵まれ、再婚することになった。
相手の男性は、温和な性格のサラリーマン。

両親の反対を押し切って、彼女との結婚を希望してくれた。
子連れという悪条件を意に介さない彼の好意に彼女は感動した。
すぐに入籍し、彼女と子供は、共に彼の実家へ身を寄せることとなる。


子供と夫とその両親。５人暮らしがはじまった。

結婚する前にはいろいろな不安があった。
（結婚前はああいってくれたけれど、彼は本当に私のことを愛してくれるだろうか？）
（彼の両親とは、うまくやっていけるだろうか？）
そして、一番の心配事。
（子供は新しい父親と仲良くしてくれるだろうか？）

しかし、そんな不安は結婚当初で拭い去られた。
新しい環境にも、無事、馴染むことができた。
そして、なにより心配だった子供も、夫をを新しい父親として慕った。
夫もまた、子供のことを愛情をもって可愛がってくれた。



幸せだった。再婚してよかったと思った。

しかし、その幸せに思わぬ方向から影がさすことになる。

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異変に気付き始めたのは、再婚して約１年が過ぎた頃だった。
（夫と子供の仲が良すぎる……）
そう感じ始めたのだ。

家の中で二人はいつも一緒にいる。風呂にも一緒に入っている。
そして、四六時中“抱っこ”や“おんぶ”。
夫はなにかと子供を抱きたがる。子供も夫に抱かれたがる。
最初はあたりまえのスキンシップだと思っていた。
しかし、その頻度は度を越えている。

また、夫はカメラを趣味にしており、ことあるごとに子供の写真を撮っていた。
最初は普通のポートレートだった。
しかし、やがて「ただの趣味だから」「あんまり可愛いから」などと言い訳しながら、



子供のヌード写真も撮るようになっていった。

そして、その写真を自室の壁の一面に貼り付けはじめた。
中にはポスターほどの大きさに引き伸ばした写真もある。
夫の部屋の壁は子供の写真で埋め尽くされた。

こうなると、もはや「子供への愛情」という言葉は適当ではない。
「溺愛」という言葉ですら足りない。おかしい、なにかしら異常だ。

しかし、子供の方は夫を嫌がってはいない。
自分から夫の自室に遊びに入り、二人きりで何かして遊んでいる。
鍵をかけた夫の自室の中で。



（まさか、この二人……）
彼女の脳裏でおぞましい疑いが膨らみはじめる。

疑いが決定的になったのは「そのシーン」を目撃した時だった。

いつものように、子供は夫と自室で遊んでいた。
ところがその日、夫は、たまたま鍵をかけていなかった。
用あって部屋を訪ね、ドアを開けた彼女は、二人の姿を見て息をのむ。



パンツをおろして立つ子供の下半身に、夫が手を伸ばしていたのだ。

妻の訪問に気付いた夫は、子供のパンツを上げてやり、何事もなかったように装いながら、子供を部屋の外へ追いやった。
部屋を去り際、子供は夫に明るい声で、こう呼びかけた。


「パパ〜。また気持ちいいことしよ〜ね〜。」

彼女は夫を問い詰めた。
夫はいう。「服の乱れを直してやっていて、パンツを履き直させている時、たまたまおまえが入ってきただけだ。」
信じられなかった。とてもそんなふうに見える体勢ではなかった。
さらにヒステリックに問い詰める彼女に、夫は逆ギレした。

その日から、夫は妻とも両親とも口をきかなくなった。
鍵をかけた自室にこもりきりになった。

妻も両親もその部屋には入れない。
子供だけが部屋に入り、二人は「何か」をして遊んでいる。

思いつめた彼女は探偵への依頼を考えた。しかし、まだ半信半疑だった。
（成人男性が、小学生にもならない子供と……）
（そんなことが本当に？）
（現実にそんなことがありえるのだろうか？）

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「ありえる話でしょうね。」

彼女から相談を受けた探偵は そう答えた。

「幼い子供を性的な対象にする男性は数多くいます。近親相姦というものも数多くあります。
ましてや、子供さんは奥さんの連れ子です。血は繋がっていません。」

「でも、それは……」

相談しながらも、彼女は動揺を隠せない。絶句する彼女に探偵は続ける。

「世の中には、いろいろな性的趣味を持つ男性がいます。
こういったケースが、ありえるか否かといえば、残念ながら“ありえる”としか。」

「だって……信じられません。そんな馬鹿なこと……」

彼女は頭を振りながら、懸命に否定を試みる。



「だって、うちの子供は……息子なんですよ？」


つづく



摂津の探偵