●更新日 03/20●


コレクター・ドノビッツの銃弾(前編)


荒木です。


追跡稼業は私にとって最たる悦楽である。
追う者、追われる者、両者がジワジワと接近してゆく緊迫感は鳥肌が立つほどの楽しみを得られる。
だが銃弾を浴びるのは誰もが嫌なのは当然である。
私が強運の持ち主なのはお判りだろうが被弾した経験もあるのだ。

世界中どこにでも蒐集マニアは存在する。
逃亡犯スタンリー・ドノビッツ(35歳)は身分証明書のコレクターである。
ドノビッツのコレクションはマーセナリー(傭兵)、ボディガード、OCB(組織犯罪事務局)、私立探偵にはじまり、CIA、FBI捜査官の身分証明書までもが含まれていたのだ。



偽造品ではなく紛れもない本物だが、ロスのコレクターズショップに行けば簡単に購入できる代物である。
主な用途は映画などの撮影用だ。
当局がいい顔をしないのは当然だが、売買自体は違法ではない。
だが無論、カードにはIDナンバーがなく未登録の代物だから公共の場で実際に使用するとまずいことになる。
身分詐称の重罪で10年の実刑である。


ドノビッツはコレクションの中からLAPD(ロス市警察)の身分証明書をピックアップし、タクシーの運転手に提示して無賃乗車を図った。
眺めているだけでは飽き足らずに使用してしまったのである。
だが、不審に思ったタクシードライバーに警察に駆け込まれて逮捕された。
ベイルボンズから保証を受けてシャバに出たものの公判に姿を見せずに行方を眩ました。

獲物は身分証明書のコレクターである。
逃亡するために偽造のIDカードを入手しているのは明らかだ。
町の情報屋をあたり、目ぼしい書類偽造屋を探していく。
チャイナタウンに工房を持つマッドという偽造屋を刑務所送りにすると脅し、「ミック・カーチス」という名でドノビッツに偽の身分証明書を造ったことを吐かせた。
そのうえ偽造屋はご丁寧にドノビッツがその身分証明書でカナダに高飛びすると言っていたことまでチクってくれた。
LAX国際空港でハンター・ライセンスを提示して各航空会社の搭乗者リストをくまなく調べあげた。
ユナイテッド航空の搭乗者リストにミック・カーチスの名前を見つけた。
行き先はバンクーバーである。


逃亡者の多くが高飛び先にカナダを選択するのは法律が甘いことと、大自然の中に逃げ込めば見つかりにくいと考えるからだろう。
だが我々バウンティ・ハンターにとってカナダは高額の賞金をかけられた逃亡者たちが潜伏する宝の山である。
アメリカの警察は手を出せないがバウンティ・ハンターに国境はない。
獲物の匂いがすれば地の果てまでも追跡する。



バンクーバー国際空港に到着すると空港内でドノビッツの情報を拾い集めた。
獲物の顔写真を見せながら航空会社のカウンターは無論のこと、タクシーのポーターやタクシードライバーと手当たり次第にあたった。
数時間も費やしたところでドノビッツを乗せたという空港専属のタクシーに行きあたった。
降ろした場所はウエストバンクーバーのクイーンズアベニューにあるモーテルだと言う。
そのドライバーのタクシーでそのモーテルに向かった。
オーナーの話しではドノビッツは二日前にチェックアウトしたという。
その際にレンタカー屋に連絡していたことが判明した。
レンタカー屋にあたると申し込みの際に本物のマスターカードを使用していたが、名前はドノビッツでもカーチスでもなかった。
カードの名義はウエズリー・バックマン。
どこかの闇ブローカーから入手したことを悟った。


本物のクレジットカードは世界中どこでも売買されているが、利用限度額によって売値が変わるが高価なものでもない。
当然ながら足がつきやすいために短期間しか使用できないからである。
獲物は再度このカードを使うはずである。
そう感じた私はウエズリー・バックマンを名乗ってカード会社に電話を入れた。
「前回に利用した際の額を知りたい」


オペレーターからすぐに返答がきた。
クイーンズアベニューから北へ20キロ行ったイエールタウンのレストランで食事したのが最新の記録だった。

翌日、再度カード会社に電話で照会するとドノビッツに動きがあった。
ホテルにチェックインしたのである。
ロブソン通りにある高級ホテル、カステリオ・ホテルの765号だった。



フロントで獲物の在室を確認すると、スタッフルームから修理員の制服を拝借して765号室のドアをノックした。
念のために38口径リボルバー拳銃を腰だめにしていた。
「天井から水漏れがあると、下の階のお客さんから苦情がありました。確認したいので開けてください」
スンナリとドアが開いてドノビッツが顔を出した。
部屋に入ってそれらしく水漏れを調べるふりをする。
そしてわずかな隙をついて獲物ににじり寄った。

「スタンリー・ドノビッツ! バウンティ・ハンターだ!」



(続く)



バウンティハンター



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